男の子にさようなら。

犬猫の去勢手術は、もはや当たり前のものになってきた。
マーキングや意図しない繁殖を防ぐだけでなく、病気の原因となる要員そのものをひとつ排除してしまうという考え方もあり、ひとつの社会ルールのような位置付けでもある。

しかし、去勢される当の本犬及び本ニャンとしては、その心中はいかほどのものだろうか。
ただでさえご主人から引き離され、不安のどん底に叩き落とされた上に謎の注射を打ち込まれて意識を失い、目が覚めたら性のシンボルを失っているのである。

特に男などは、チャームポイントが身体の外にぶら下がっているのだから、その喪失感は計り知れない。
もし僕がある日目が覚めた時に自分のチャームポイントが喪失されていたら、心の拠り所を求めて怪しげな宗教にはまり込み、霊験あらたかな壷や数珠などで身辺を固め精神の安定を計ろうとするに違いない。
やはり目に見えるものが失われるというのは、大事件なんである。

彼女の愛犬、大河号は、お出かけが大好きである。
ゴツい名前であるが、白くてちょこちょこ落ち着き無く動き回るチワワだ。
落ち着き無く動き回る辺りに他人とは思えないシンパシーを感じている。

先日も彼女が出してきたワンズ運搬用のカバンに我先に飛び込み、玄関先でお出かけ待機をしていた。
あまりに早く飛び込み過ぎたため、5分ほどその体勢のまま待機を余儀なくされたほどだった。

いよいよ出発ということで、バッグの中に大河の弟半蔵が投入され、彼女が犬の毛まみれの服で寄り添うと、大河のテンションは絶頂を迎える（家を出るとビビり始めるので、ここが絶頂なのだ）。
スンスンと鼻を鳴らし、今日はどこ行くんや！と狭いバッグの中で小さな尻尾をピコピコとやるのである。

目次ですよ。

彼女「今日は大河男の子を卒業するんやで♪」

涙が止まらなかった。
ご主人を信じてやまないこの白くて小さな愛くるしい生き物から、男の子のチャームポイントを笑顔で奪い去ろうというのである。
彼女はドッグカフェで働いているから、

彼女「お店に来る犬はだいたい半分くらい玉無しやで」

なんてことをケロッとした顔で言う。
しかし、やはりそう簡単に割り切れるものではない。
冒頭でお伝えした通り、寝て起きたらチャームポイントが無くなっていたなど、笑えないギャグである。
大河に同情の涙を流しつつ股間に手を当てて精神的なダメージと戦っていると、彼女が

彼女「半蔵は明後日手術やからなー♪」

と鼻歌混じりに話しかけていた。
半蔵は彼女を信頼し切った眼差しで、バッグの縁に手を掛けて、やはり尻尾をゆらゆらとしている。
遠くの方からブルースが聴こえてくるような気がして、僕は目を閉じることしかできなかった。

その日の夕方、無事に手術が終わったという連絡と、術後の大河の写真が送られてきた。

心なししょんぼりとしているように見えて、元気がない。
半蔵が大河のエリザベスカラーを

「にーちゃんイカす！マジイカす！」

といったテンションで見つめて周りをグルグルと回っているらしい。
もうすぐ半蔵の手術の予定日だ。
僕が泣いてばかりいると、彼女が威圧的に話し掛けてきた（彼女は基本的に威圧的だ）。

彼女「そんなんお前、うちの子が他所でマーキングして迷惑かけたり、精巣ガンとかになってもええっちゅーんか。」

僕「違う！そんな至極真っ当な正論を語っているんじゃない！」

彼女「ほな何やねん」

僕「ア”ーッ！」

全て割り切るには、僕はまだ若過ぎる。

Information

山本優作ワンマンライブ〜Stand & Fight〜

■会場
bar yay a ebisu
東京都渋谷区恵比寿1-12-7三恵ビル3階

■日時
2014年9月14日（日）
19:00 open
19:30 start
21:30 end
■ゲスト出演
柴田ヒロキ（Vo.Gt）
■料金
予約3000円/当日3500円
※どちらも1ドリンクついてます。
※お客様は15名限定とさせて頂きます。
■ご予約は
accr.mail@gmail.com
まで、お名前とご予約人数をご記入の上、ご連絡ください。