わが新居のホコリっぽきお掃除事情。

窓を全開にして玄関を開けると、秋の渇いた風が高い空からぐんぐんと流れ込んでくる。
玄関は内向的なくせに時折暴発的なワンパクさを発揮するわがチワワ達がくぐり抜けられない程度の隙間なのだけれど、それでも十分な量の新しい空気が、部屋にこびりついた疲労や苦悩を連れ出してくれた。

よく言われる話しだけど、水は流れていればこそ新鮮で、バケツにすくって閉じ込めた途端にたちまち腐ってしまう。
小さい頃に祖父の海釣りに付いていくと、竿を構える前に海の水をバケツですくって側においておく。
その後釣れた魚をその中にポイポイ放り込んでいくのだけど、その魚たちはしばらくするとすぐにぐったりとして死んでしまうのだ。

「そりゃアナタ、当たり前でしょう」なんて思われるかもしれないが、僕にはとても意味深く感ずる記憶なんである。
『大きな流れから切り離されたものは死んでしまう。』
この世にいくつかある、真理だと思う。
そういう訳で、大いなる真理に基づき、僕は額に汗して新居の清掃活動に勤しんだのであった。

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掃除は「上から始める」が鉄則だ。
軽薄にも掃除機掛けなどから始めて棚やライトの拭き掃除を後回しにしようものなら、ピカピカにしたフローリングの上にボタボタとホコリやゴミが落ちてきて発狂することになる。
そもそも床だって「いっちょ掃除でもやったるかァ」という思いに駆られる時には様々なナニガシで埋め尽くされているものだから、まずは掃除機や雑巾を掛けられる床を発掘する作業が必要である。

手掛ける順序を誤ると、それだけでどんなに頑張っても掃除が進んでいる気がせず、そのうちやる気が削がれてうっかり目を合わせた未読の書籍にヨヨヨと引き込まれてしまう。
そんなことだから貴様は生まれてこのかた片付けられない女としてホコリと犬の毛を胸いっぱいに吸って生きているのだと、掃除が始まると同時に掃除機に手を伸ばした彼女様に心の中で叱責した。

思いが通じたのか(通じては困る)彼女様は直ぐに掃除機を所定の位置に戻し、「これは美女の仕事ではない」と言った。
異論は無いが、掃除機を手放した理由は分からなかった。

掃除が終わると部屋の中が見違えるように明るくなった。
ちょうど水を入れ替えたばかりの水槽のように晴れやかだ。
その中を大河と半蔵が、これから買い出しに伴う長時間の留守番を強いられるとも知らずに気持ち良さそうに泳ぎ回っている。
帰宅後われらは部屋の各所に投下された報復のウンティーヌを目撃することになるのだが、それはまた別の話である。

見渡すと、彼女様の調理器具および小物類およびその他分類ままならぬサムシングが各所に点在している。
それらについては収めるべき収納棚がまだ無いので致し方ないということだ。
確か引越し前に要るとも要らぬともつかぬ膨大なる所持品に跨って「引っ越し前なので致し方ない」と言っていた気がするが、まあ、気のせいだろう。

引っ越しは当分終わらない。
理由はよく分からないが、ホコリのよくたまる部屋だから、できるだけマメに掃除は続けていきたい。