【ロックっぽい弾き語り演奏を考える】③ロック的サウンドをアコギで出すための3つのテクニック

音楽を演奏する人向けに、アコギでロックっぽい演奏をするための色々を考える連載なうです。
少し間を開けてしまいましたが、これが連載3本目の記事となります。

さて、今回の記事では、いよいよあなたのリスナーの脊椎を揺らし、「おお、なんとロックなサウンドかしら!」と感嘆の声援を打ち上げる具体的なテクニックをお伝えします。

…ところで、思慮深いあなたならきっと、ただテクニックを駆使するだけで新たなサウンドを手に入れられる訳がないことなど、既にお見通しでしょう。
今この瞬間に鳴らせる音が、僕やあなたの現段階における音楽理解の集大成であることに、疑いの余地はありません。
サウンドが物足りないということは、理解か鍛錬の、どちらかが足りないのです。

音楽は、時に技術ばかりが魅力的に感じられることがあります。
流麗な指先が指板を踊るさまと、そこから生み出される奇抜なサウンドの数々は、僕たちのハートを熱く燃え上がらせるには十分過ぎるものです。
しかし、最も大切なのは、その技術を導入することで楽曲を魅力的に仕立て上げるための、人の感性に対する理解や、理解のベースとなる知識なのです。
技術のために楽曲を演奏をするのではありません。
楽曲のために技術を修め、演奏の中に配置しなければならないのです。
技術とはあくまで楽曲を構成する一要素なのですから、そこを見誤っては音楽の女神も愛想を尽かしてしまいます。

タッピングもスラップもライトハンド奏法も、楽曲を彩る飾りでしかありません。
飾りばかりに気をやって肝心の中身がスカスカでは、リスナーは満足できないものです。
まず、自分の第1のリスナーである自分自身が、なんだか物足りないはずなのです。

この連載の入口がこの記事だったという方も、少なくはないでしょう。
未熟ながら、稚拙ながら、お恥ずかしながら、僕の音楽への理解を文章にしたためてきた過去記事があります。
何か感じるものがある方は、この記事を読み進める前に、ナナメ読みをしておいていただけると、いいかもしれません。
 
 
【ロックっぽい弾き語り演奏を考えるシリーズ】
「ロックっぽい」アプローチは、メリハリのあるビートを前面に押し出すアプローチに宿る
音楽とは、高い音と低い音を整理整頓したものである
 
 
よろしいでしょうか。
それでは、僕が駆使しているテクニックをご紹介します。
ピックでバッキングするので精一杯…という方でも採用できるものばかりですから、気楽に読み進めてください。
逆に、高難易度のテクニックを求めている方にとっては、”そもそもテクニックとは何ぞや”ということを問う内容でもあります。
当たり前のことがどうして当たり前なのか、一緒に考えていこうではありませんか。

それでは、どうぞ。

「常に弦を全て弾く」ことをやめる

エレキギターを嗜まれる方にとっては当たり前のことかもしれませんが、僕のようにコードジャカジャカの世界から入ってアコギしか触ってこなかったギター弾きにとっては、非常にセンセーショナルな情報です。

シンプルなバンド編成のロックナンバーに耳を傾けてみると、4拍子の1小節の中で、バスドラムとスネアドラムがビートにアクセントを付けていることがわかるでしょう。

ドン
タン
ドンドン
タン

といった具合です。
これをアコギのバッキングで再現するのです。
即ち、

・バスドラが鳴るタイミングでは、低音弦(6~4弦あたり)しか弾かない。
・スネアが鳴るタイミングでは、高音弦(2~1弦あたり)まで弾く

ということです。
前回の記事で「高い音」と「低い音」が人に与える印象の違いを解説しました。
バンド演奏ならスネアが鳴るタイミングで高音弦が鳴れば、それだけでかなりビートが際だつことを感じられるでしょう。
 
 
【応用編】・・・「全部の弦を鳴らさない」→「その時必要な音を出す弦だけを弾く」

人が感じる音の高低感覚は相対的なものです。
6弦1本しか弾いていない時間が続けば、仮にスネアの位置で鳴らす弦が5弦であっても、十分アクセントを付けることが可能です。

「常に全ての弦を弾く」という概念を手放せたら、「その時必要な音を出す弦だけを弾く」というステージにステップアップしてみましょう。
ミュートの技術も非常に重要になってきます。
そういえば、昔ギターを少し教わったプロの方が仰っていました。

「ゆうさくくん、プロとアマチュアの差ってどこに出るか分かるか?ミュートやねん。アマチュアはミュートが甘いねん。プロは鳴らしたらアカン音は絶対鳴らさんねん。聞いたら一発で分かるで。気合い入れてミュートしいや。」

ボリュームを細かくコントロールする

オープンマイクやブッキングライブのようなアマチュアミュージシャンが集まる音楽の場に行ったことがある人なら、終始同じような音量でギターを搔き鳴らし続ける演奏を聴いた経験が少なからずあるでしょう。
1曲だけならまだしも、それが2曲3曲と続いていくと、中々どうしてその場に居続けることが苦痛にも感じられてくるかもしれませんね。

実は、アコースティックギターという楽器をピックでジャカジャカ搔き鳴らすというアプローチは、ボリュームのコントロールが非常に難しいのです。
実に簡単に、最大音量が出てしまう楽器なのです。
だからこそ、「アコギで小さな音を出す」概念と技術を修めた人は、それだけで実に多彩な音色を操ります。
複雑な技術を手に入れなくても、本当にそれだけで、どんな安物のギターであっても、素晴らしいサウンドが流れる時間を作り上げることができます。
 
 
【応用編】・・・「ボリュームのフェーダー」の感度を上げる

突然ですが、PA卓というものを見たことがおありでしょうか。
こういうやつです。

→画像

この白くて上下に上げ下げするボタンのようなものを、フェーダーと呼びます。
フェーダーはほとんどの状況において、ボリュームを司るものです。
これを上げればボリュームが大きくなりますし、下げれば小さくなります。
ライブハウスのPAさん達はこういった機材を使って、僕たちのステージを支えてくださっているのです。

ところが、PA卓にも質があります。
あまり質の良くないPA卓は、このフェーダーがコントロールするボリュームの上下に、ムラがあるのです。
例えばそれは、フェーダーの上下移動幅が10センチあるとしたら、最上段の1センチで極端にボリュームが大きく変化する、といった具合です。
これでは、微細なボリュームコントロールとステージの演出など、望むべくもありません。

機械としてのPA卓は、一度そのムラを与えられたら、変わることはできません。
しかし幸福なことに、僕たちミュージシャンは変えられるのです。

アコギ演奏におけるボリュームコントロールの基礎は、「アコギのボリュームのコントロールは非常にデリケィトである」ということを自覚することでした。
目覚めたあなたが次に踏むステージは、「その時に出すべき音量を繊細に捉え、繊細に表現する」というものになるでしょう。

ぜひ覚えておいていてください。
”思い切りギターをかき鳴らす”という演奏を音楽的に成立させるためには、”思い切りギターをかき鳴らさない”という演奏が必要なのです。

アタックを使いこなす

「音のアタック」という概念をご存知でしょうか。
例えば船の汽笛のように、「ボォ~~~~」を地面の底から響くような音は、「アタックが弱い」と表見します。
逆に、ボクシングのゴングのように「カンカンカンカン!」と耳に突き刺さるような音は、「アタックが強い」と表現するのです。

そのことを、僕たちの手元に置いて考えてみましょう。
そう、そもそもアコースティックギターという楽器は、アタックが非常に強い楽器なのです。
具体的な説明は長くなってしまうので割愛しますが、ここを理解しておくことはギター弾きにとって非常に重要なポイントになります。

何せ、弾き語りが飽きられる三大原因は、

・アクセントがなくビートが一辺倒
・ボリュームが終始変わらず一辺倒

そして

・音色が終始変わらず一辺倒

なのですから。

繰り返し述べてきたように、僕たちが愛するアコースティックギターという楽器は、実は非常に繊細でデリケートな歌姫なのです。
その中でも特にデリケートなのが、この「アタック」に関する概念です。
ここは本当に奥深い世界なのですが、やはりまずは僕たちがアコギを理解するところかは入りましょう。

アタックの強い音は、それが続くだけで人に不快感を与えます。
いわゆる「耳が痛い」というやつです。

ピックを持つ手を緩める、弦にピックが当たる角度を調整する、手のひらで消音し切らない程度に弦をミュートする、楽曲によって、爪や皮膚、ピックなど、弦に触れるものの材質を変える、、、などなど、考えられるアプローチはいくらでもあります。

「このアタックだとどう感じる・・・お、このアタックはこういう風に感じるな・・・」

といった具合に。
それらを効果ごとに楽曲の中に配置し、適切に演奏するのです。
手間を惜しまず、面倒をいとわず、なにをどうすればどんな音が出るのか、じっくりと語り合いましょう。
僕たちのギターは、こんなにも歌いたがっているじゃないですか。
 

答え合わせは「あなたの音楽」で

 
音には、その高さや音色によって、「人がこう感じる」という”効果”があります。
音楽演奏における技術の役割とは、つまり”効果を演出する手段”なのです。

「リスナーが物静かで落ち着いたイメージ」を抱く、という効果がほしいとき、開放弦をガシャガシャ弾くアプローチは、果たして正しいと言えるでしょうか。
しかし、だからといって「ミュートした弦をしゅくしゅくと弾き続ける」ことが正しいとも、限らないのです。

ついぞギターの話ししかしていませんが、弾き語りは楽器演奏だけでは成立しません。
弾いて語るものなのですから、本来あなたの声を置き去りにしては考えられないものなのです。

非常に抽象的な話しになってしまって恐縮ですが、あなたの音楽とはつまり、ギターの弦とピックのやりとりではなく、ギターの音だけでもなく、「ギターの音とあなたの声」なのです。
あなたが歌う時、ギターもまた歌っています。
ギターが歌う時、あたなもまた歌うのです。
弾き語りとは、分かちがたいもう1人の自分とのデュオであり、セッションなのですから。

あらゆる要素が最終的にこの場所で合流するのですが、今の段階でぜひ一度、あなたの無限に広がるイメージの世界で、想い描いてみてください。
あなたがあなたの音楽を「ワォ!」と感じる時、あなたの声とあなたのギターは、どのように溶け合っているでしょうか。
そこに在るあなたの音楽が、あなたにとっての唯一の正解です。
迷った時に立ち返る場所です。

愛と誠実さを持って、ギターと、声と、自分たちとイチャイチャしましょう。
その土台の上で、技術を育てましょう。
それはきっと、素晴らしい音色の花を咲かせるでしょう。

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