わが愛しのAm P.21:空想に遙か及ばず(2018/08/09)

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俺の「てれびくん」を見てくれ

僕が通っていたみなと保育所には、保母さんが絵本の読み聞かせをしてくれる時間があった。基本的には保育所にある絵本を読んでもらうことになるのだけど、子どもたちが持参した絵本を保母さんが読んでくれることもある。どんな本を読んでもらったのかはほとんど覚えていないけれど、一度だけ本を持参して、読んでもらったことがあった。

知性あふれる僕が持参した書籍の名は、「てれびくん」であった。小学館が発行する、主にアニメや特撮ヒーローの情報がふんだんに盛り込まれた少年向けの雑誌である。月刊誌なのだけど、当時の僕はそんな概念持ち合わせていないから、自分の手元にある「てれびくん」がこの世にただ一冊の「てれびくん」だと信じて、死ぬほど読み込んだものだった。その家宝とも言うべき「てれびくん」を、どうしても保育所の友人たちに紹介したくなったのだ。

その日僕は朝から大変緊張していた。何度も母に「これ保育所に持っていってもええなかあ」と聞いた気がする。母はどうだろう、「お前が持って行ってええねんってゆーてたんやで?」的なことを言ったんではなかったか。ともかく、自分の好きなものをみんなの前で公表する、あまつさえ自分ではない第三者であるところの保母さんに読んでもらうというのは、なんだかよく分からないけれど、お尻の穴の裏側あたりが、気が狂うほどむず痒くなることだったのだ。そういえば何年か前、ミュージシャンの先輩がサプライズで僕の曲をカヴァーしてくれた時も、そんなむず痒さがあったなあ。

絵でもなく、文字でもなく

かくして、「てれびくん」は保母さんの手に渡った。そこで初めて自分の「てれびくん」が、これまでみんなが持ってきていた絵本とは比べものにならないくらいボロボロになっていることに気付いて、すごく恥ずかしくなった。

僕はスーパー戦隊のページを読んでほしいとリクエストした。ライブマンのグリーンサイが怪人にキックを放っているページだ。保母さんはその項がいくつかの写真からなるストーリーであることを悟ってくれたのだけれど、キックの前のページがちぎれて失われていることに気付いて、僕が示したページから怪人が爆殺されるところまでを読み通してくれた。その間僕はずっと尻の痒みと戦っていた。

ページ数が少なかったので読み聞かせはあっという間に終了した。僕は絵の解説と書かれている文字を読むだけの保母さんの読み聞かせに対して「そうじゃない」という印象を持ったのだけど、うまく説明できなかった。保母さんから「てれびくん」を受け取って件のページを開いてみると、あんなに夢中になって読み込んだページが、なんだか急につまらないもののように感じられた。

僕はきっと、絵を見ていたのでもなく、文字を呼んでいたのでもなくて、そこから広がる空想世界を描いていたんだろうなあ。
 
 
スーパー戦隊ライブマンのグリーンサイが敵と戦っている画像

あーそうです、ちょうどこんなページでした


 
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