わが愛しのAm P.55:封じられた生物兵器(2018/09/25)

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茶色い小ビンを拾いました

小学6年生の夏の頃だったと思う。僕は学校から少し離れたプールの近くで、泥まみれの小ビンを拾った。リポビタンDのビンを少し細くしたような、ややスタイリッシュなシルエットの茶色い小ビンだった。

ビンの中には何か得体の知れない液体がほんのちょっぴりだけ入っていて、振るとちゃぷちゃぷと控えめな音がする。僕はその小ビンを学校に持ち帰り、水道で周りの泥を洗い落として服の裾で磨いた後、机の上に置いてしげしげと眺めたのだった。

色んなものを入れてみました

ある時ふと思い立って、小ビンの中に給食で残ったトマトを入れてみた。トマトが苦手なクラスメイトのとしゆきくんが、全面的に協力してくれたのだ。彼は配膳されたトマトを全て提供しようとしてくれたが、僕は「トマトだけで小ビンがいっぱいになってはいけないから」と受け取りを辞退した。小ビンの中にトマトを一欠片入れて振ってみると、それは謎の液体と混ざってぐずぐずになった。

その日から、小ビンの中に色々なものを入れるのが僕の日課になった。僕はタンポポの花びらや鶏糞、金色のスプレーや死んで朽ちていた蝶々の羽など、目についたけったいなものを片っ端から小ビンに詰め込んだ。いつしか小ビンはいっぱいになって、もう何も入れられなくなった。小ビンは教室の後ろの棚で、しばらくの間忘れられていた。

煮てみました

季節は流れ、冬が来た。教室には円柱形のストーブから配置され、その上には水を張った金だらいが置かれている。水はもちろんお湯になっていて、かすかに波打つ水面では湯気が愉快そうに踊っていた。

僕はその時先生が算数の時間に使う巨大な三角定規の先端を湯に浸けて柔らかくなったところをヒン曲げ、絶対に綺麗な直線が書けないように加工する作業に勤しんでいた。そこでふと、本当にふと、思い付いた。そうだ、煮てみよう、と。

先っちょがやや曲がった程度の巨大三角定規を放り出して、教室の後ろの棚から例の小ビンを持ってきた。金だらいの中の湯はほどよい深さになっていて、僕はその中心にそっと小ビンを立たせた。よく一緒に小ビンの中に入れるものを探していたなおやくんとなおきくんも一緒になって、一体何が起こるのか、固唾を飲んで見守った。

バイオハザードが起こりました

もはや数えきれないほどのマテリアルがみっちみちにに詰め込まれた小ビンは、授業一回分ほどの間煮込まれた。途中、小ビンが大爆発をして教室が吹き飛んだり、訳の分からない生き物が生まれてストーブの隣に座っているゆきみちゃんが襲われたりしないかと思うと、気が気でなかった。

授業が終わると、僕となおやくん、なおきくんは、申し合わせたようにストーブの周りに集合した。お互いの顔を見渡すと、全員が妙にりりしい顔をしていて、だから僕らはもうこの茶色い小ビンを開けるしかなくなったのだった。

僕らは廊下の手洗い場に小ビンを移動させ、冷水で十分に冷却してから、蓋に手をかけた。開かない。中に色々ものを放り込んでいた頃は何度も開け閉めしていた蓋が、ピッチリとしまってまるで微動だにしない。僕はさらに歯を食いしばって、全身の力を込めて蓋をひねった。

その時だった。わずかに動いた蓋の隙間から、異常に健康的なピンク色をした重々しい液体が、音も立てずにもももももっと溢れてきた。僕たちは「うわあああああああ‼︎」と大きな声を出して、急いで蓋を締めなおして、たくさんの水で手とビンと手洗い場を洗った。

その液体は異臭を放っていたらしく、ちょっとした騒動になった。僕は臭いのことを何も覚えていないから、あまりの臭さに記憶が一部飛んでいるのかもしれない。あるいは、脳が生命の危機を感じ取って嗅覚を遮断した可能性もある。そんなわけで、お決まりのパターンなのだけど、僕たちは先生から、その危険な創作物の廃棄を命ぜられた。

地中深くに封印しました

僕ら3人はすっかり困ってしまった。なにせ、自分たちが何を作ったのか分からないのだ。何か分からないものを捨てるというのは、実に難しいことだった。

ふと、学校の裏門の長い坂に取り付けられた、パイプ状の長い手すりのことを思い出した。そういえばあの手すり、最近一番上のパイプの穴を閉じていた蓋が取れて、細長い空洞が口を開けていたんではなかったか。

行ってみると案の定、そこには果てしなく暗い穴がぽっこりと空いていて、どうにも異界じみた怪しげな雰囲気を放っている。僕たちはこれまで共に学校周辺を走り回ったこの小ビンに申し訳なさを感じながらも、もはやこうする以外に方法がなくて、その薄暗い穴の奥に向かって、茶色い小ビンを放り込んだ。小ビンはごりごりと擦れるような音を立てて、あっという間に見えなくなった。

今も地中で育っています

坂道はコンクリートで埋め立てられ、真上に新しい校舎が建った。工事の現場を見たわけではないけれど、わざわざ埋め立ててしまうところから余計な手すりを取っ払ったりはしないだろうから、きっと手すりもあそこにある。つまり、僕らの茶色い小ビンもまだ、あそこにいるのだ。

明日になるか、数百年後になるか。津木小学校周辺で謎のピンク色の液体によるバイオハザードが発生したら、それは僕らの犯行です。本当にすいませんでした。
 
 
茶色い小ビンの画像


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