わが愛しのAm P.80:男の背中(2018/11/13)

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前回のあらすじ

ケータイ屋に転職したのだ。

仲間がなんだかむずかしい

徹頭徹尾「工期内の建物の完成」という分かりやすい目的を共有し、その場にいる全員が同業者だった工事現場の作業員の仕事とちがって、ケータイ屋の現場には「客」という謎の生命体がいたのだった。

厳密に言えば、工事現場では施工会社が客ということになるのだけど、その辺は目的が同一であるから、ほぼ身内である。対して客は、一人ひとりが全く違う目的を持って店に来ていた。それはまあ、じっくり話せば分かってくるのであまり困らなかった。困ったのは、仲間であるはずの店員たちの心内がサッパリ分からなかったことだった。

僕にだけ不機嫌な人々

売り上げ重視タイプや、人柄がいい人が担当だと、それはラッキーだ。少なくともその場に居るストレスが大いに軽減される。難しいのはヤル気がないタイプと、なんだかよく分からないけどずっと不機嫌なタイプだった。

そうそう、僕はひとつの店に常駐しているスタッフではなくて、通信会社(KDDIでしたな)の直下で営業マンとタッグを組んで店のテコ入れや販売応援をするようなポジションだったのです。だからだいたい1週間くらいで、行く店が変わるのですよ。

で、ヤル気がないタイプ。これはもう捨て置けばよかった。むしろ好立地なお店で放っておいても客がわんさか来るようなところだと、淡々と機械のように仕事をこなしてくれる人の方が便利だったりしたのだ。問題は、なんだかよく分からないけどずっと不機嫌なタイプの方だった。

なんだかよく分からないけどずっと不機嫌な人には共通点があって、僕とのファーストコンタクトの時からずっと不機嫌なのだ。もともとこういう人なのかと思って見ていると、自分の店のスタッフとは仲良くしているし、僕に対するクレームも入る。どうやら僕が彼らを不機嫌にしているらしかったのだけど、その理由はさっぱり分からなかった。

すんげえ2人

行かなきゃいけない店のスタッフが僕にだけ不機嫌だよう。嫌われてるよう。何でだよう。とか何とか苦しんでいたら、そのうち入ってきた同じ部署の後輩の中にすげえ人が2人ほど入ってきた。

ひとりはカモさんといった。九州生まれなのだけど、十代の頃に大阪でケンカばかりしていた頃に拾われたヤクザの事務所の姐さんに誘われるがまま手を出したら他の兄さんたちに殺されそうになったので、1年ほどカナダに逃げていたらしい。で、コーヒーショップで働いていたら知らないうちにビザが切れていて、帰国してきた空港で普通の人はまず入れない物々しいお部屋に通されたりしたのだそうだ。好き勝手生きていたら借金が300万円ほどできていたから、あ、ヤバいわこれ、ってことで働きだしたらしい。骨太ったらない。

もうひとりはキヨタさんだ。カモさんのようなぶっ飛んだエピソードはないのだけど、しっかりと周りを見渡して、周囲を楽しくさせてしまうムードメイクの達人だった。

全くキャラのちがう2人だったけれど、それぞれに共通していたのは、自分が信じるものをひとつ腹に持っているということだった。それがあるから、多少トラブルがあってもブレない。人の意見や視線にブレまくっていた僕には、その2人の年上の後輩が、最高に眩しく見えたのだった。

無礼千万

長くなるけれど最後にひとつだけ、今も思い出すとシビれるエピソードがあるので、書いておきたい。

あれはカモさんが、メーカー内では悪名名高いY電気に行った時のことだった。今はどうか知らないけれど、当時は大きな家電メーカーといえば過剰な体育会ノリが蔓延していて、平たく言うと、偉い人が威張りくさって気に入らないやつをイビるような風習があったのだ。カモさんが行った店も、そういう文化のはびこるところだった。

聞いた話しによると、カモさんはauのスタッフと自社の売り場をどうしたらもっと素敵にできるか、相談していたのだそうだ。すると突然フロアリーダー的なY電気の社員が目をつけて、「お前のような奴は呼んでいない。帰れ」と言われたらしい。おまけに、弊社にクレームまで入れてくださる徹底ぶりであった。

これも悪しき風習だけど、メーカーはお店という器がなければ商品を販売することができないので、基本的にお店よりも立場が低い。店だって商品がなきゃ売るものがないのだから本来は同等ではないかと思うのだけど、少なくとも当事者たちの認識は違っていた。

KDDIのY電気担当の営業マンはカモさんがトラブルに触れてしまったという話しを聞いて、当時量販店チームのリーダーをしていた僕と一緒にカモさんと話しをしたいと言ってきた。別に咎めようとか、そういうことではない会だった気がする。

カモさんと営業マンと僕、あと僕の部署のリーダーの4人が集まってテーブルを囲ったところで、営業マンが口火を切った。「カモくん、何か言いたいことある?」するとカモさんは、まっすぐな目で営業マンを見据えてこう言った。
 
 
「言い訳は何もないです。そして、もう二度とY電気には行きません。無礼千万甚だしいです。これでクビになるなら、それでいいです」
 
 
ちょうど周りの人の目にすっかり怯え切っていた時期だった僕は、カモさんの言葉にすっかり胸を撃ち抜かれた。僕は営業マンが「そうか」と言って何もせずにその場を立ち去った後、思わず「男として尊敬します」と伝えていた。

カモさんはこの時はお咎めなし。その後僕が退職してからは一度も会っていない。当時のカモさんは確か28歳。今の僕は33歳だけど、相変わらず彼が理想の大人の男像である。
 
 
auのガラケービブリオの画像
 
 
当時KDDIの偉い人から「auユーザーがソフトバンクのiPhoneに離脱しようとしていたらこれで止めろ」と言われたお笑い端末。その名は「biblio」。変態端末好きな仲間たちの間では熱烈な人気を誇り、一部の分かっている馬鹿は正式名称ではなく「腸炎」と呼んで愛した名器。ええ、僕も持っていました。


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