家庭内における医療関係者の存在と弊害。

人は傷付いた時、弱った時には、労ってもらいたいものである。特に実際の痛みが伴っている場合などは、さすられ優しい言葉をかけられ美女に添い寝をしてもらいつつ気が向いた時にはプッチンプリンを食べさせてもらうくらいのことをしてもらいたいものだ。

これが生活の中で叶わない人が居る。家族の中に医療関係者が居る人である。ちょうどポケモンを自分の好きなモンスターを集めて純粋に楽しんでいる時に、隣からやれ努力値がやれ種族値がと明らかに違った次元からの口出しをされるようなものである。何でも知っているから、未知のもの、不安なものに力を合わせて立ち向かう、という安心感が得られないのである。

僕の母はこの道数十年のベテラン看護士である。だいたいの病気や怪我は見慣れているし、話しには出さないが、日常的に人の死に触れているという現代日本では大変に希有な職業である。そんな医療関係者が自宅に居るというのは、正直心強い。心強いが、なんか違うんである。

例えば、僕が自転車に乗っていて砂利道で転んだ時のことだ。膝を大きく擦りむいた僕が泣いて帰ってそのことを伝えると、母は顔色ひとつ変えずに歯ブラシを取り出した。その時の僕の絶望を、想像できるだろうか。

確かに痛いのは嫌だ。可能な限り迅速に取り除いて欲しい。しかし、本当に僕が求めていたのは、安心なのである。大丈夫ではないと言い返すが、大丈夫だからね、すぐに治るからね、ほぉらアイス食べて頑張ろうね、みたいなことをしてもらいたかったのである。誰も歯ブラシで傷口の小石を搔き出し、消毒液をザバザバぶっかけて化膿を押さえるという適切な処置など求めていないのだ。

そういうことで、家族に医療関係者がいると、心強いけれど安心できないという状況が生まれる。

先日のことだ。ブログでも書いたが、僕は父と伯父と弟の4人でゴルフラウンドに行ってきた。その最終ホール付近で、アバラを痛めたのである。

ゴルフでアバラを痛めるというのは、実はよくある。父の知り合いの体育教師は、4番アイアンを振ってアバラを骨折したのだそうだ。屈強な体育教師がスイングでアバラを痛めるのだから、繊細なミュージシャンであれば背骨や脳幹的なところを痛めても不思議ではない。その上で痛めた箇所がアバラだけなのであるから、むしろ僥倖であると言える。

しかし僥倖であるとはいえ、痛いものは痛いのだ。この記事を書いている今も現在進行形で痛い。労ってもらいたいし優しくされたい。その気持ちをいかんともし難くなった僕は、無駄だと分かっているのに夕食を終えて焼酎を呷る母に声を掛けた。

僕「お母さんアバラが痛いんです」

母「止めさそうか?」

僕「そういう救いよりも手前で、もうちょっと小さく救われたい」

母「神経痛?」

僕「わかんないけど、ゴルフの後から変わらず痛いから違うと思う」

母「押したら痛い?」

僕「うん」

母「パンチしてみたらどうやろ」

僕「色んな意味の涙が出ると思います」

母「まぁ、ほっとけ」

僕「え、でもヒビ入ってたりしたらさ」

母「どうせアバラとか、ヒビ入ってても折れてても何にもでけへん」

僕「ほ」

母「そんなとこにギプス巻いてもしゃーないから」

僕「ほ」

母「焼酎おかわり」

僕「ほ」

救いの日は遠い。

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母「おかわり!」

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