軽トラロードとワンパクじいちゃん。

ここ最近のブログから漂ってくる田舎臭が大変な濃度であるが、事実田舎に住んでいるのだから許して頂きたい。静かで大変に暖かいのだけど、レコーディングなどをしていると猿除けの空砲の音が鳴り響いたり、風が木竹を撫でる音が響いたり、ネコのカイちゃんがエサを寄越せと鳴く声が響いたりと、思いのほか色々と響いている。どんなハードなリフを弾き込んでいても、奴隷を呼びつけるネコ様のお声が入ってしまっては、それはもはや牧歌である。自ずと角も取れてくるというものだ。

カイちゃんは今日も行く

そんな日々に、今日は新しい声が響いた。じーちゃんが、寝室の蛍光灯が点かなくなったので、買い物に行くのに付き合えというのである。ちょうど情報を回していて頭の中が沸々と煮立っていた時であったから、僕は喜んでその誘いに乗っかった。

じーちゃん「日曜日で電気屋ら閉まっちゃぁるんとちゃうか」

知らんがな。

移動中、僕に軽トラの運転を押し付けたじーちゃんが、後方に流れてゆく田畑を見送りながら呟く。こちとら誘い出された身である。ちょうど、おいしいお菓子があるから一緒に来ないかと言われて知らないおじさんに付いていってしまった子供と同じだ。

僕のツッコミが聞こえているのかいないのか、じーちゃんは相変わらず窓の外を眺めて、ほーだとかへーだとかと呟いている。

じーちゃん「やっぱい閉まっちゃららよぉ」

せやから知らんがな。

クリーム色のシャッターは「誰も通さないんだかんねボカァ」と確固たる決意を持って東電機の店内を外界と切り離していた。横一文字に走った青色のラインと、白いパナソニックのロゴが憎らしい。そしてじーちゃんは軽トラの助手席でふぇーだとはお”お”お”だとか言って唸っている。

じーちゃん「ほな、しゃーないから遠回りしてかえろか」

何が「ほな」なのか。「しゃーない」の使い方はそれで正しいのか。様々な疑問が脳裏をよぎる。僕には仕事があるのだ。じーちゃんには楽器で遊んでいるだけだとか、パソコンで何かよく分からないことをしているだけに見えるかもしれないが、これは仕事なのである。明日のゴハンが掛かっているのである。そうそう自分の時間を軽く扱う訳にはいかない。僕は酷く憤慨して、じーちゃんに一言言ってやろうと、軽トラの運転席に漂う土の香りのする空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

じーちゃん「どっかで甘いもんでも食べていのらよぉ」

僕「はぁい!」

胸いっぱいの空気が大変に威勢良く飛び出していった。そういうことなら仕方があるまい。戦士には休息も必要である。腹が減っては戦は出来ぬ。甘いものを食べずして自宅に戻ることなど、とても有り得ないことのように感じられた。

ところで、じーちゃんの喋り言葉は可能な限り本人の発声に近いニュアンスで表記してある。地元の方言と本人のロレツによる文体の変化で多少読み辛い部分もあるかと思うが、ご了承願う。なお、「いのらよぉ」の「いぬ」とは、「帰る」という意味の和歌山弁である。

じーちゃん「あそこな山登ってこら」

じーちゃん「道せばいんで気ぃつけぇよ」

じーちゃん「ほんにええ景色やさかい、彼女らと来たらええわ」

じーちゃん「軽トラックではムードが無いわなぁw」

じーちゃん「ほれ、ええ景色じゃ」

じーちゃん「道せばいどっ」

んもうノリッノリであった。運転に集中していると景色が良いからと見下ろす海を指差し、景色に目をやると道がせばい(狭い)と言って安全運転を要求してくる。どうしていいのか分からず、あーとかおーとか言っているうちに、軽トラは峠を越え山を越え、風車の生えた山頂を左手に見上げながら、和歌山県の海と山の間をぐるりと回った。

山道などを走っていたものだから、喫茶店などあるはずがない。僕たちはぐるりと回ってきた道をもう少しだけ進んで、高速道路の乗り口にあるローソンのイートインに入った。

じーちゃん「なんど甘いもん買うてこいよ」

席に座り財布を渡してくるじーちゃん。ホットコーヒーが欲しいということだったので、ローソンのマチカフェでホットコーヒーとカフェラテを注文し、ミニシュークリームを買ってじーちゃんの待つイートインに。コーヒーを出してシュークリームを開けると、じーちゃんは店内に響き渡るほどに大きな声でこう言った。

じーちゃん「こんなもんら食べたことないわ」

そんなことないから。じーちゃん、正月にアホほど食べてたから。カイちゃんモフモフしながらすごい幸せそうだったから。

じーちゃん「(もぐもぐ)・・・こりゃあ、シュークリームみたいなもんじゃな!」

素晴らしい推理であった。推理の概念一新である。

そんなこんなで僕とじーちゃんの軽トラデートは、シュークリームらしきものを頬張りつつ終了した。

そういえば、一緒に昼食を食べ、畑の溝を掃除し、ドライブをしてテレビを見て・・・僕は今までの人生の中で、一番じーちゃんと触れ合っている。音楽とa.c.c.r.の仕事が周り始めると、またすぐに大阪や東京を飛び回る日が返ってくる。それは僕の使命であり天命であると思っているから、そうならなければならないという思いである。

だから、今受け取れるものと渡せるものは、しっかりと交換しておこうと思う。

ところで、明日は蛍光灯を買いに行くんですかね?

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カイちゃん「んなぁ」

じーちゃん「なんよぉ」

話聞いてください。