ミッドナイト秋葉原の逆襲

ゆうさく
ゆうさく
ドラゴンボール超のベジータが可愛すぎて恋しなおしてる。

自慢ではないが東京で仕事をしている。和歌山県生まれの田舎者にとっては、東京で働いているという何でもないことでさえ、「自慢ではないが」という前置きを置けるに値するファクターである。優しく見守ってほしい。

自慢ではないが東京で仕事をしている。しているのだけど、住んでいるのは神奈川県だ。新大阪から新幹線に乗って帰る時は新横浜で降りるので、東京の土は踏まない。なのにこちらに戻ってくる時は「東京に帰る」などと言うし、「新」という言葉を連呼するだけでちょっとテンションが上がる。優しく見守ってほしい。

先日ややあって秋葉原に宿を取った。夜遅くに仕事が終わり、翌日同じ現場で朝から仕事があったからだ。遅い時間の現場が続いて体も気持ちも少々まいっていたから、ありがたかった。

宿は神田明神のすぐ近くにある「坂のホテル トレティオ お茶の水」だ。最寄り駅は秋葉原や御茶ノ水。少し坂を下ると神田川が緑色の怪しげな泡をブクブクさせているのが見える。

ホテルにチェックインしたのは23時ごろだった。現場から20分ほど歩いた挙げ句、最後の最後に4フロア分くらいの高低差の階段を上らねばならなかった。

お腹は空いていなかったのだけど何か食べたかったので、部屋に荷物を放り込んですぐに外出した。神田明神で手を合わせて(えびす様には特に念入りに)坂を下る。出際にフロントのおじさんが「近くにココシュがありゃあしゅよ」と鬼気迫る滑舌でファミレス情報を提供してくれたが、昔COCO’SをCoCo壱番屋と間違えて入った時のガッカリ感が思い出されたので行かなかった。もちろんCOCO’Sに罪はない。

しばし歩き、JR秋葉原口の電気街口側にやってきた。秋葉原の外観イメージを形成するメーンストリートの裏通り、日中に歩けばラーメン屋とケバブ屋が立ち並び、オタク達が跋扈する混沌の地に差し掛かかる。時刻は23時20分ごろ。そういえば夜にこのエリアに足を踏み入れるのは初めてだ。

さすがにほとんどの店が灯りを落としている。キョロキョロしていたら、突然女子高生風の女の子に声を掛けられた。

「ガールズバーいかがですかー」

呼び込みを任されるだけあって、かわいらしい顔立ちだ。リアルな学生ではなく、大人向けの映像作品に登場する女子高生″風″のコスプレが、むせ返るようなサブカルチャーの匂いが立ちこめる薄暗い通りであやしく揺れている。

僕はクールに右手の動きだけでお断りをした。嘘です。本当はちょっとドキドキしてました。でもガールズバーがどういうお店なのか知らないんだもん。いかがですかと聞かれても「分かりません」と答えるしかないんだもん。

あと全然関係ないのだけど、役者をしている友人の中西氏が、同じく友人の森山氏から金を借りてガールズバーに行ったという未来永劫どうでもいい話しを思い出したので、なんとなくバラしておく。

その後胸ときめく飲食店を求めて小一時間ほど夜の秋葉原を徘徊した。途中、ものすごく大きな音を立てる痛車をリスペクトし合うお兄さんの一団や、ため息をつきながら錆びついたシャッターを下げる猫耳のメイドと遭遇するなどしたが、胸ときめく飲食店は見つからなかった。

仕方なくコンビニでツナマヨおにぎりとカップ麺を買って帰った。例の長い階段に二度目のアタックだ。もう二度と登るまいと心に誓いながら、一歩一歩ふみしめたものだった。

フロントで部屋にポットはありますかと聞くと、「ありゃあしゅよ」と言う。シャワーを浴びながらお湯を沸かし、ツナマヨおにぎりとカップ麺を啜った。エアコンの直撃を受けるベッドで目を閉じたら、翌日腹を壊して300回くらいトイレに行った。

夜の秋葉原はとても危ない。