先日から「鋭い嘘」という言葉が脳内に何度も浮かんでは消えている。言葉のタッチから歌詞になる曲なのかと思い考えを巡らせてみるものの、そういった展開を見せる雰囲気は無い。そもそも、「鋭い嘘」とは一体どのような嘘なんであろうか。
「勘が鋭い」という言葉がある。所作や言動や表情といった微細な変化を捉え、繋ぎ、仮説を立てる能力に長けた人を指す言葉である。指摘を受けた者はそういった行動を意識していないから、まるで演じた日常を裂いて自分の確信を貫かれたように感じるから、「鋭い」という言葉を当てたのだろう。
即ち、この「勘が鋭い」という言葉においては、「鋭い」とは受け手側の実感から選ばれた言葉であることが分かる。
とすると、「鋭い嘘」がどういったものであるのかがなんとなく見えてくる。「勘が鋭い」と同じように、「鋭い」を受け手側の実感から当てるように考えを巡らせていくのである。そうすると
『鋭い嘘とは、正しい情報への進行をその一言で切り落としてしまうような嘘ではないか』
という仮定が生まれる。それっぽくて、なんかかっちょいいではないか。
では、どういった場合にこの「鋭い嘘」は使われるべきなんであろう。思い巡らせた結果、夜の波止場が見えた。
僕「悪いが、ここでお別れだ。」
超絶美女「え・・・そんな・・・あたし、あなたと一緒に・・・!」
僕「駄目だね。女なんか連れてちゃ身が重くてかなわねぇ。」
超絶美女「私、きっとあなたの役に立つから!」
僕「・・・俺には帰る家はねぇが、帰る女が居るんだ。」
超絶美女「!」
僕「色の白い、いい女なんだぜ。」
超絶美女「だってあなた・・・私のこと・・・愛してるって・・・」
僕「そういうことを言った方が、具合がよさそうだったんでな。」
超絶美女「うぅ・・・ッ」
僕「・・・あばよ。」
超絶美女「・・・嘘つき・・・」
僕「すまねぇな。」(ココで立ち去る)
超絶美女「・・・本気だったくせに。」
これだ。
そう、「鋭い嘘」とは、ハードボイルドな嘘のことなんである。しかも美女の勘も鋭いんである。こんな俺と居ちゃあ不幸になっちまうって思ってたんじゃねぇか、的なことを後でわざわざ誰かが解説してくれるアレなんである。うむむむむッ。是非つきたいぞ鋭い嘘ッ。
ここまで考えて「鋭い嘘」がつきたくてしょうがなくなった僕は、iPhoneを取り出し、彼女様に電話を掛けてみた。
彼女様「何」
僕「あ、えっと、あの、ちょっとあの」
彼女様「今忙しいから。ブツッ」
僕はものの数秒でそれは見事な惨殺体と相成った。彼女様は、ただただ鋭い。
試しに「鋭い嘘」でGoogle検索を掛けてみたところ、この画像がヒットした。表情や背景が、実に意味深である。