批判しない男と滑空生物に魅せられた凶暴な女。


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とある識者の言うところによると、警察署で死刑を受けた受刑者は執行の瞬間に自分の行いを鑑みて反省しているかというと、そうではないという。
むしろ自分の身を守るために行動を起こした結果がこのザマだ、といった風に、自らの行動は正当であると主張する方が多いのだそうだ。

とある識者というのは、ドール・カーネギー。
ご存知の方も多いだろうが、世界的に有名な『人を動かす』という書籍の冒頭は、このような話題で幕を開ける。

僕たちには自分の行いを正しいと信じようとする性質がある。

ゴルファーのタイガー・ウッズが不倫騒動を巻き起こした時、騒動の後で彼は「今までこんなに頑張ってきたんだから、許されると思っていた」というコメントを残している。
実際にゴルフを頑張ってきたことと不倫をしてもいいかどうかということは全く無関係だ。
しかし彼の中では不倫を楽しむための理由として、ゴルフを頑張ってきたことが選出され、「こんなに頑張ってきたのだから」と自分を納得させていた。

あるいは音楽仲間の間では、音楽では食っていけないことを正当化するために「世間の連中は聴く耳がない」「日本の芸能文化はレベルが低い」といった理由を持ち出す者が多い。
しかし、「音楽を楽しむこと」と「音楽で食っていく」ことはまったく別のことだ。
売れない自分を正しいと思うために世間が間違っていると信じようとするというのは、他の業界でも失敗する者に多く見られる傾向である。

『人を動かす』の中ではこの人の性質を知って、相手のことを批判・非難しないと第一項を締めくくる。

死ぬまで他人に恨まれたい方は、人を辛辣に批評してさえおればよろしい。
その批評が当たっていればいるほど、効果はてきめんだ。

という一節が、実に印象的である。
この一節を読んでから、僕は自分の身の回りの人物、特に彼女様を否定するようなことは一切言うまいと心に誓ったのだ(これ以上恨みを買ったら命に関わる)。

その彼女様から昨日突然、こんなことを言い渡された。

彼女様「明日からお前の事務所でモモンガ飼うから。」

僕「何言ってるの?」

彼女様「お前の事務所でモモンガ飼うから。」

僕「何?え?え?」

彼女様「モモンガ」

僕「どうして?多角的におかしくない?なんで突然モモンガ飼うの?うちで?」

彼女様「昨日行ったカフェでモモンガ里親募集しててん。」

僕「君の実家の君の部屋で飼えばいいじゃないか。もうチワワも2匹いるし、変わらないじゃないか」

彼女様「家族から猛反対を受けました」

僕「僕の猛反対は猛反対と認定されないんですか」

彼女様「だってモモンガかわいいやんか」

僕「僕まだ見てないもの。モモンガの形状とかディティールとか、全然頭にないもの。」

彼女様「ロフトに上がる階段の下のスペースとか、モモンガのための空間にしか見えんかってん。」

僕「もしかして僕が姿見の鏡置いて朝のオシャレするために使ってる空間のことですかそれ」

彼女様「演奏の動画撮ってる時にモモンガが画面を滑空して横切ったりしたらほら、斬新」

僕「新し過ぎてもうそれ音楽じゃなくなるから」

彼女様「夕方に迎えにいくから、時間作っとけよ」

僕「えっ」

彼女様「さっき正式にカフェに連絡いれました」

僕「えっ」

彼女様「名前はキャシー」

僕「えっ」

彼女様「モモンガ可愛いからしゃーないな」

僕「」

人を批判することは簡単だ。
だが批判された者がどのような感情を抱くかということを、僕たちは忘れてしまう。
人を批判しないというだけで、僕たちは良い感情に囲まれて生きていける。

しかし人を批判しないでいすぎると、ある日突然モモンガを飼うことになるから油断ならない。
読者の皆様も、十分に気を付けていただきたい。

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こちらが電話の後で送られてきたキャシーの写真。
あれ・・・可愛いぞ・・・