音楽をしようとすることをやめたんで、ブログを書こうとすることもやめます。

人は足し算をすることで自分を作り上げていく。
知識を足し、経験を足し、価値観を足し、バッグをいっぱいにすることに躍起になる。

最初のうちはシンプルなものばかりだ。
そのうち「〜すべきだ」とか、「〜じゃなきゃダメだ」とか、「”べき”とか”ダメ”って考えちゃダメだ」とか、非常に繊細でデリケートなものを足し始める。

そうして足し尽くした果てで、ようやく気付くのだ。
「自分は上手くいっていない。」と。

このバッグには、これ以上何も入らない。
とっくのとうにいっぱいで、何かを足すことなんかずっと昔からできていなかったのだ。
それどころか、肩に食い込むベルトと重量に軋む膝を見ては、自分がいかに多くのものを持っているかを実感し、満足していたんである。

辿り着きたい未来は遠い。
生きることがしんどい。
僕は悩んで、悩んで、一番怖かったことをやめることにした。

ミュージシャンであることをやめた。

正確には、立派なミュージシャンであること、魅力的なミュージシャンんであることをやめたのだ。
するとどうだ、途端に音楽が楽しくなった。
今僕の頭の中には、次にカヴァーしたい曲が山のように浮かんでいる。
どんなアレンジをし、どんなアプローチをし、どんなヴォーカリストとコラボレーションをしようか、ずっとワクワクしている。

引き算が、これほど気持ちいいとは思わなかった。
今までもそういうことは考えていたのだが、本当に意味で自分から余計なものを引いたのは初めてだったかもしれない。

そうしてミュージシャンでいなければならない自分の中の論理を手放すと、その他のゴチャゴチャの奥に何かが見えるのだ。
それは大昔にこのバッグに入れて、しかし忘れ去っていた、ものすごく大事な何かである。

僕は次になにをやめようか、じっと辺りを見渡した。
そうしたらすぐに、最初の頃はただ楽しんでいたのに、今何かと理由をつけて自分でつまらなくしているものを見つけた。
これをやめるのか、と考えると怖ろしくてしょうがなかったのだけど、少なくとも音楽は「やらなければ」をやめた瞬間にまた好きになれたのだ。
僕は意を決して、ここに宣言しよう。

ブログで人を笑わせようとするの、やめた。

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イケメンをやめることはできるだろうかとカイちゃんに相談したところ、彼女は大変な勢いで爪を研ぎ始めた。
「この爪のように、罪のない木箱を引っ掻いてでもやめてみせよ」ということだろうか。

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