コーチングやカウンセリングのセッションはクライアントの方との対話であると同時に、自分自身との対話でもあります。
たとえばクライアントが「こういう結果が欲しかったので、逆算してこういうことをしてきました」と話してくれると、逆算思考が苦手な僕の中には「それに比べてお前は無能だ」という声が響きわたります。こういった反応現象に向き合う術を持たないかぎり、コミュニケーションそのものを仕事にすることはできません。
かつて僕はその術を、アメリカの臨床心理学者マーシャル・B・ローゼンバーグ博士が提唱したNVCというコミュニケーションの技法から学びました。その時、同じコミュニティにいた「さぬいちはる」さんという方が書かれた小冊子が、人伝に僕の手元にやってきたのです。
『Gift』というタイトルの小冊子。たくさんの写真と少しの言葉で作られたこの読み物は、一見詩集のようにも見えます。
ページをめくりながら、ペンを走らせながら、ちはるさんとたっぷりお喋りをしました。よく会っていた頃、彼女の中で織られていた覚悟の糸が、きめ細かに、けれども力強く編み上がっているように感じられて、読み進める僕の中には勇気がわいてきました。
素敵な言葉や写真がたくさんあって、全部紹介したいのだけど、文字数と時間(もうすぐ日付け、変わっちゃうの)の問題で一か所だけ、ここは、というところを紹介します。
それは、ちはるさんが人にやさしくしたいのに、できない自分に、やさしさのない自分に絶望した後の話し。
それは、ちはるさんの中にひときわ大きな「やさしさを大切にしたい」という気持ちがあったことに気付けた時の話し。
それは、「人間だったら誰もが、あぁ…それは大切だなぁ」と思ったことがある、そういうものを『ニーズ』と呼ぶのだと知った瞬間のことです。
自分だけは気づかなかったけれど、守らなくてはいけないルールや常識から、自分が外れた存在になっているのかもしれない。そんな分断の想いを抱いていたちはるさんは、『ニーズ』という人間なら誰もが持つ感情の原石…とされる概念を知ることで、人間としての絶対的なつながりに気付き、大きな荷物を下ろします。
彼女はその時の感情を、大空のような余白と、海原のような行間いっぱいに詰め込んで、表現してくれていました。
心の穴が埋まったからといって、これまでと違う生き方をするには、やっぱり勇気が要ります。例えそれがどんなに歪でも、これまでいた常識の中は居心地がいいものです。
しかしちはるさんは見事に飛び出しました。具体的に言うと、仕事をやめてインドに行きました。それまで怯えて絶望して生きていたレディが、ひとりで。すごいよね。このエピソードは小冊子にはないんだけど、使われている写真は、インド的なあっち方面のもののはずです。
一人の人間が絶望の丘から勇気の翼で飛び立つ瞬間を、すぐ隣で目撃させてもらったような読後感です。大空と海原は、汚いメモで汚染しちゃったんだけども。
今でもちはるさんとの交流は続いています。あまりネット上での発信がないので、たまにこんな小冊子なんか読んじゃうと、飛び級で進化してるように感じて、びっくりしちゃう。
ちはるさん、勇気をありがとう。この小冊子は確かに僕にとってのギフトでした。間に入ってトスしてくれたずずこさんも、ありがとうございました。受け取ってから読み始めるのに少し気持ちの準備が必要だったから遅くなっちゃったけど、読めてよかったです。