細やかなニュアンスに拘る男のレコーディングと家族の絆。

先日のことだ。僕は新しい楽曲のレコーディングをしていた。まだ発表前なので詳しいことはお伝えできないのだが、この楽曲は非常にシンプルな構成をしているので、ちょっとした間やイントネーションで受け取るイメージが大いに変わってしまう。『簡単だから難しい』の典型的なパターンである。

ただ僕はギターの音と自分の声しか出せないから、そういったニュアンスで勝負が出来なければもはや存在意義は無いと言って良い。何日も何日も練習をして、何度も何度もモニタートレーニングを重ねた集大成が、そのレコーディングであったのだ。

マイクを立て、レコーディングソフトを立ち上げ、精神を集中させて演奏に臨む。クリックの音に耳を澄ませながら、一発録りのレコーディングが始まった。ギターの鳴らし方、爪の当たる角度と、弦とぶつかった瞬間のノイズ。自分の声がどうすればかすれるのかは、日々のトレーニングの中で既に掴んでいる。

こういった一発録りは、1テイク目で良いテイクが録れなければ、後は何回やってもダメなんである。「ここはうまくやろう」という考えが、音楽の中では雑念となる。その雑念が鮮度を落とす。気持ちの良い流れに身を任せていられるように、そういった細かな調整をしておくことを練習というのだ。

・・・長い潜水を終え、久しぶりの酸素を貪るスイマーのように、僕は大きく息を吸った。レコーディングは終了だ。手応えとしては、申し分ない。僕は鼻息荒くリプレイボタンをクリックし、楽曲のモニターにとりかかった。

ジャッジャッジャジャジャ

悪くないビート感である。次のセクションからスラミングの打音が入ってくるが、そのバランスはいかがか。

ドゥツズジャッ ッカツカッ

良いではないか。ビートのコントロールもようやく様になってきた、といったところである。そして間もなくヴォーカルのセクションだ。僕はより一層深く、音の世界に潜り込んだ。

「にゃーん」

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ねこが居た。

今まさに僕のかすれたヴォーカルがとんでもねぇ哀愁を引っさげてインしてこようかってところにねこが居て、「飯をよこせ」と訴えていた。

全身を襲う脱力感と戦う。いや、全然小さい音だったから。こんだけ集中してる僕だったから気付けたアレだから。僕じゃなきゃ聞き逃してたから。そう自分に言い聞かせているうちに、波形はどんどんと進んでゆく。

「ゆうさくーおふろはいりなー」

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おかあさんもいた。

おかあさんが、お風呂に行きなさいと呼び掛けていた。おかあさんダメだから。この後サビだから。一番聴いてほしいところだから。

「あ、はーい」

とか言って歌ってる人がお風呂いっちゃったら、変でしょ?アヴァンギャルドにも程があるでしょ?

「おーい先に風呂はいるぞー」

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おとうさんでした。

なんか、山本家大集合でした。

しばらく、レコーディングは平日の日中にすることにします。