僕の父は時折何かの発作のように料理をする。実際、何かの発作なのだろう。以前母から
「あんたは広くて浅いから」
と言われた際、
「それが僕のポリシーですから」
と胸を張って答えているのを聞いたことがある。実に潔い男である。
昨夜のこと。その父がイチゴジャムを作るのだと張り切って腕まくりをしていた。どこから取り寄せたのかイチゴ4パックの入った段ボールをひっぺがし、コツコツとヘタを取っていたのが夕食の直後である。
僕が一仕事を終わらせて戻ると、父はナベでイチゴを煮立たせているところであった。
父「おう、食うてみよ」
と言って、グツグツのシチューのようなイチゴを突き出してくる父。
父「熱いから気ぃつけぇよ」
ブラザーぷぅちゃん「僕の時そんなんゆーてくれへんかった」
父「歴史は犠牲の上に刻まれるんや」
ちょっとした騒ぎがあったらしい。
形の崩れたイチゴを冷ましてから頬張ってみると、ゼリーのような食感の奥にイチゴ本来の心地よい香りや酸味が感じてとれ、種のプチプチとした歯ごたえが口当たりにアクセントを効かせている。
僕「おお、おいしい」
父「せやろ」
僕「おいしいなあぷぅちゃん」
ブラザーぷぅちゃん「味を感じる前に味覚細胞が死にました」
僕「すいませんでした」
僕に出来るのは、ぷぅちゃんに代わってこのイチゴジャムを楽しみ尽くすことであるように思われた。
父はこのままもう少し煮込むのだといって、コップに注いだ焼酎を嬉しそうにすすり始めた。その場にいた誰しもが、イチゴジャムの鍋を期待の眼差して見つめていた。すぐ隣の、母が豚汁を作っていた鍋から飛び出した油揚げがイチゴジャムの海に身を沈めたのは、ちょうど、その時であったのだ。
母「あ」
父「あ、とちゃうわぁぁぁぁああ」
父は間もなく50代も折り返そうかという年齢をものともしない機敏な動きでもって油揚げをオタマですくい上げると、手首を返してそれを豚汁の鍋に投げ返した。
父「何を一味加えてくれとるんじゃあ」
母「イヒヒヒヒヒィィッwwwwwwブフォオッwwwwwwww」
おおよそ会話として成立しないやりとりが繰り広げられる中、僕は黙って風呂に逃げ込んだ。
風呂から上がってくると現場のほとぼりはおおよそ覚めていて、その時間になるといつもベロベロに酔っ払っている母が
母「優ちゃん、この豚汁明日のお昼ゴハンね」
と言って手をヒラヒラさせていた。僕はありがとうと言って、もう一仕事を片付けて布団に入った。
そして今、である。僕はこの記事を書きながら、父が豚汁の鍋に油揚げを投げ返した際、一緒にそこそこの量のジャムを同梱していたことを思い出して、戦々恐々としている。
間もなくランチタイムだ。まずは、ブラザーぷぅちゃんに毒味をさせよう。彼が「何ともない」と言えば、きっと食べても大丈夫だろう。完璧な作戦である。
イチゴジャムと豚汁のエキゾチックなコラボレーション。