夢は砕くもの

今年の4月くらいから、本気で自分のタスクとスケジュールの管理システムを作り始めました。仕事を無理なくこなせるようになりたかった、ということもあったけど、本格的に音楽を再開したくなったので、プライベートも含めたトータルの、まさに人生のタスク管理をしようと思い立ったのです。

自分がやりたいことをするには技術が必要だと気付いた時、僕は既に30歳を過ぎていました。何も考えず、情熱の赴くままに暮らせば、夢は道となり、道は人生となる。そんな幻想を抱いて30年、僕は相変わらず、夢を夢のままにしておりました。

間違いに気付いたのですよ。そりゃあ「情熱に従って生きる」という言葉だけで素晴らしい人生を送る人もいるだろうけど、僕はそうではなかった。30年やってうまくいかなかったんだから、間違いない。ならどうするか。そこで僕が目を付けたのは、タスク管理を通してライフスタイルをデザインする、ということでした。

そんな訳で、己の人生を生きようともがく同志達とシェアするために、この2ヶ月間で気付いたいろいろを書き出していきます。結論を先に書いておくと、「夢は砕くもの」でした。

「プロジェクト」と「タスク」と「スケジュール」

タスク管理を進めてきた中で、自分の中でも特に重要だったと感じている変化は、タスク管理をとりまく概念が言語化できたことです。

例えば、「翌月1日に2分尺の動画を5本YouTubeにアップする」という仕事があるとしたら、

  • プロジェクト
    ▶翌月1日に2分尺の動画を5本YouTubeにアップすることそのもの
  • タスク
    ▶動画のコンセプトを決めたり、素材を撮影したり、編集したり、といった作業もろもろ
  • スケジュール
    ▶締め切りの翌月1日までにタスクを、処理する順番で並べたひと流れのこと

という感じ。たったこれだけのことが自分の中で明らかになっただけで、ものすごく仕事が楽になりました。いやいや、仕事だけじゃなくて、プライベートも、仕事以外のやりたいことも、この方式で整理するだけで、確実に進んでいくのですよ。

ぼんやりした目標に具体的な形を与える

仮に僕が「一流のミュージシャンになる」という目標を立てたとしましょう。素晴らしいことです。でも、それだけでは一流のミュージシャンにはなれません。まず、「一流のミュージシャン」という言葉に、具体性を授けねば。このままではいくらなんでも抽象的すぎて、「とにかくガンバル」という中身のない呪いを自分にかけてしまうだけです。

授ける具体性は、例えば、「ピッチが全然ブレない」といった技術的なものでもいいし、「年収1000万円」的な収入に関するものでも、何でもOK。自分に対して「一流のミュージシャンって、つまりどんなもの?」って聞いてみて、出てきた答えをどんなに馬鹿馬鹿しくても紙に書き出していきます。誰かに聞かれたら笑われそうなことも、誰かが言ってたら指指して笑うかもしれないことも、恐れずに書き出していきます。

で、一通り書き出したら、その中から「これだけは外せない」という要素を3つだけピックアップします。3つって、人間の感覚にとってもフィットする数なのよね。他のものと合体できそうなものは、この段階で合体させちゃう。どうしても3つに収まらなかったら4つ目5つ目を作っても別にいいけどね。

そんな感じで、掴み所のない抽象的な目標に、具体的な項目を与えていきます。この具体的な項目が、「プロジェクト」です。

プロジェクトを砕いてタスクにする

プロジェクトが3つ立ったら、それらをバキバキに砕きます。例えば「ピッチが全然ブレない」というプロジェクトを立てていたとしたら、ピッチが全然ずれなくなるために何をすべきか、書き出していくという作業をするということです。

え?計画に使う時間が長すぎる?

そりゃ当然でしょう。今日の夕方のトレーニングだけで、ピッチ・パーフェクトな人生を手に入れることなんか、できっこないのだもの。むしろこれは、そういう人生に対する怠け心が積もり積もって今日の自分を作り上げているのだということに気付くための、素晴らしい時間なのです。

怠け心の話題が出たので、ここでもう一つ優しい真実を。

人は間違います。プロジェクトを必死に砕いて完璧なタスクを作ったと思っても、そのタスクが本当にプロジェクト達成の役に立つかどうかは、実際にやってみないと分からんということです。それは逆に、「何でもやってみな」ってことです。よくダイエット商品の販促フレーズとかで使われてるけど、「これさえやれば大丈夫!」というものに人は心引かれます。引かれている心の名を、怠け心といいます。おや、また会ったね。

人生の最大の敵は「めんどくさい」だと本気で思ってるのよ、ボク。だから、めんどくさいと思ったらそれは、かなり高い確率で正しいことだと思う。めんどくさい、けど必要。「けど必要」を見ないふりして楽しようとするから、魔法みたなサムシングが世界に掛かるのを待つ。目が覚めたら、描いて計画して実行することが、この世の本当の魔法なんだって分かるんだけども、時間、かかっちゃった。

そういう感じで、ここではしっかりと地に足を付けて、「めんどくさい」を退けます。ペン先に夢と魂を込め、笑わば笑えと奮い立ち、己の未来に続く手がかりを書き綴るのです。

「小田和正を毎日通勤の時に聞く」
「風呂から上がったら20分はキーボードで音階のトレーニングをする」
「トレーニングの時には必ずスマホで音を録音して小まめに聞き返す」
「平井堅の曲を流して一緒に歌ってるところを録音し、どの音階や発音の時にピッチが崩れるのかを見定める」

エトセトラエトセトラ。

この段階では「3つまで!」なんて発想は不要です。10個でも20個でも書き出してヨシ。書き出すベシ。「めんどくさい」をやっつけながら3つのプロジェクト全てでこの作業をしたら、次のステップへゴーです。

タスクを並べてスケジュールを作る

24時間は空の空き箱ではなく、中身がぎっちりつまった倉庫であるという話しがあります。何もしなかったという日も、実は「ぼーっとしている」や「漫画を読む」や「HIKAKINの動画をダラダラみる」的なことをやっているのですよ。

そんな訳でご覧下さい。今手元に積み上がっている、「めんどくさい」という人生最強の敵をでえええいとはじき返しながら作った誇らしいタスクの数々を。それらのタスクを、人間的で豊かな生活が送れるよう調整し、毎日の生活の中に並べていこうではないですか。惰性で流し見している漫画やYouTuber達には、感謝を伝えてご退場いただきましょう。

で、この作業をする時に個人的に大切だと思っているのが、「人間的で豊かな生活が送れる」ラインを死守すること。具体的に言うと、「睡眠」と「食事」と「仕事」。あと僕は個人的な趣向で「掃除」「整理」も入れてます。

寝ること、食べることは、命の基本。「寝てない感」「空腹感」はクリエイティブな生活の大敵と断言いたします。同時に、働いて給金をいただき、お金の不安の少ない最低限の衣食住を確保することは、ゆとりある心でクリエイティブに取り組むためには無くてはならないものだと確信しております。

どん底からの一発逆転、ワタクシも夢見ておりました。でも、そんなことが起こらないまま、気が付くと30歳になっておりました。一発逆転からの上り調子で天空高く飛び上がり、そのまま大空の覇者となる方もおりましょう。が、少なくとも30年間やってきて成果の上がっていない人生方針に、これからの人生を賭け続けるのか?僕はNOを選びました。

そんな訳で、「睡眠」と「食事」、「仕事」はきちんとする。その残った時間に、タスクを並べていきます。タスクの中には「1度やれば十分なもの」「定期的にやるといいもの」「毎日繰り返したほうがいいもの」があるのですが、その辺りも間違えることを恐れず、「こうしてみては」と仮説を持って並べて行きます。

後は並べたタスクを日々の暮らしの中で実行していくだけです。くり返すけれど、「睡眠」「食事」「仕事」の時間を優先すること。これだけは大切にする。僕らの時間資産は、差し引き残った数時間。そろそろこの記事を読む時間も惜しい程度には、燃えてきたんではないかしら。

ここで、もうひとつ大切なことがあるのです。それは、「並べたタスクが着実に進んでいるのか、自分は目標に向かって着実に前進しているのか」という実感を感じる必要があるということです。

これを感じるために、僕はGTDとタスクシュートという手法と使って、「プロジェクト」「タスク」「スケジュール」を管理しています。この辺りはまた長い話しになってしまうので、日を改めてお話ししましょう。

夢を砕け!

大きな夢さえあれば、強く想い描けば、すばらしい結果は引き寄せられるだろうか?そうかもしれないね。だけどさ、「引き寄せる」んだから、「今は持っていない」んだよね?その状態を、もしかして引き寄せちゃってない?的な、ね。まあいいんだけど。

夢は抽象的なものです。だけど僕らは具体的な世界を生きています。だから夢を叶えるために、目的を達成するために目標を置き、プロジェクトを立て、タスクに砕き、並べてスケジュールを作る。そのプロセスで起こるドラマや奇跡を楽しもうと、僕はそう思っています。

そしてそれは、今この瞬間に強烈なスポットライトを当てる行為だと確信しています。過去でもなく、未来でもなく、今ある時間とアイデアと、意思と直感を、抱きしめることです。何から何まで神の手に委ねていいのなら、僕らはなんで人間なんかやってるんだと。

人間として楽しくもがき生きる、その想いを書き起こす。この記事を書くタスクは、とても幸せなタスクでした。