空に生きるイケメンとネコとツナのパルフェム。

寝転がるということを、人はあまりしない。家の中ではなく、家の外で、である。

それには様々な理由(「寝転がると踏みに来る者がいる」「踏まれたことがある」「今踏まれている」など)があるだろうが、僕はこの外で寝転がるという行為を、一般常識で固まり切った現代の人々に是非お勧めしたい。

そもそも、人は空の下に生きる生き物である。我々はこの空から光を受け取り、雨を受け取り、風を受け取る。空は常に平等である。その空を見上げるに当たって、立ったままでは首が痛い。座っていても首が痛い。寝転んでこそ、素直な体勢と気持ちで空と向き合うことができるのだ。

ということで、先日も母の実家の駐車場寝転がってきた。国道のセンターライン上やデパ—トの屋上のような人に迷惑を掛ける場所や、彼女様の近くのような寝転がっているイケメンを踏みつけて迷惑を掛けてくる人の居ないところは避けるのが紳士というものだ。

空がいちばん初めに教えてくれることは、我々の視界は限りなく狭いということだ。空は大きく、あまりに大きく、我々の眼球程度ではその全端と、奥行きの全てを見て取ることは不可能である。

空を感じるには目を閉じることだ。空とは、場所でも物でもない。視界に入るものが空ではないのである。我々は、空の中に生きているのだ。空の中に、地球があるのである。

そのように聡明かつ感性的に美しく呼吸を楽しんでいると、何者かに顔を踏まれた。母の実家の飼い猫、シロちゃんであった。

シロちゃんは薄目を開けた僕にみゃおみゃおみゃおみゃおと鳴き立てるとゴハン皿の横に付き、非常に強い語気でもってもういちどんみゃおと鳴いた。お前はメシを食わせにきたのだろう。そのような無意味な行為に興じていないで、とっとと食い物を出せ。ただし旨いものに限る。そういった眼差しである。よく彼女様が誕生日の2ヶ月ほど前から見せ始める、あの眼差しに似ていた。

シロちゃんのために買ってきたシニア用のツナの缶詰を皿に開けると、彼女は大変な勢いでそれをカッ食らい始めた。僕はシロちゃんがツナに夢中になったのを確認して、改めて駐車場で寝転がり、目を閉じた。

服を揺らし肌を撫ぜる風は、この家の庭木に触れ、家屋に触れる。脇に止めたジムニーたんに触れ、自由きままに姿を変えながら山に触れ川に触れ虫に触れ隣の物干竿に掛かっているばあさんのパンツに触れてまた僕に触れる。

風はこの空の底で揺れる、小さなエネルギーの渦である。古い砂利混じりのコンクリートが指先や後頭部や背中や尻を押し、遠くの方から聞こえてくる犬の鳴き声と鳥の羽音に身を委ねる。ちょっとびっくりするくらいのツナの香りが僕の鼻腔と肺を一杯に満たしたのは、まさにその時であった。

「くっさ」

と顔を歪めて目を開けると、口の周りをツナ缶の汁まみれに汚したシロちゃんが、同じようにコンクリートの上に転がって、こちらに蒼い目を向けていた。

彼女たちは、いつも正しい。そこにあるものを、そこにあるものとして捉えている。悲しい意味付けをせず、自分を貶めず、出来事を出来事のまま受け止め、その中で生きている。

それはとても正しくて、美しいことである。

僕は彼女にそれを習い、再び目を閉じたけど、やっぱりツナ臭くてもうあかんかった。

写真 2014-05-16 9 57 34

Information

MooBeaLounge 家口リョウ × 山本優作

6.28EVENT

ムード感満載、JAZZ系シンガーソングライター家口リョウと、ビート感満載の踊れるシンガーソングライター山本優作の初のダブルネームイベント。

弾き語り、バンド、インスト、ロックにJAZZにフォークにポップス・・・変幻自在のサウンドワークをたっぷりお楽しみ頂きます。
ゆったりお食事やお喋りの楽しめるラウンジパーティー形式のイベントです。

MooBeaLoungeの詳細はこちら

その他のライブスケジュールはこちら

メルマガ配信しています。

メルマガ購読・解除

ブログには書けないような愉快な話、不思議な話、熱い話などを、書きたいと思った時にお送りしています。

もちろん、ライブのスケジュールや新しい動画の配信のお知らせなども。

登録希望の方は上記の登録フォームにメルマガを購読するメールアドレスを打ち込んで、「送信」をクリックしてくださいませ。

まぐまぐ!のページに行けばバックナンバー(過去記事)も公開するようにするので、現段階ではまだ一本もありませんが、過去の内容も全て公開しています。

では、メルマガでも会いましょう。登録よろしくね。