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アヤシイレコーディング会場は龍脈の上
ある日、専門学校の同級生で、新町北公園仲間であるしょーちゃんと松尾氏が、和歌山県のある場所で、懇意にしている松尾先生の合唱レコーディングをするのについてこないかと声を掛けてくれた。(先生も苗字が「松尾」なのでちょっとややこしいが、なんとかついてきてもらいたい。)で、もちろん日々特別な自分を探し求めていた僕は、お呼ばれなんかしちゃったら嬉しいものだから、そのお誘いに尻尾振ってついていったものだった。
レコーディングをする場所は、なんと民家。松尾先生の幼馴染みの実家で、なにやら龍脈の真上に建っているおうちらしい。そこに色々見えちゃったりする人々が集まって、収録する楽曲の名前は「ついてる100回ソング」である。アヤシイ。実にアヤシイが、僕をそこに向かわせたのは、松尾先生の幼馴染みの名前だった。ワカさん。この人、僕が高校生の時に役者をした時、共演した役者さんなのです。
しかも当時その人に「君、辻斬りにあったことある?」とか言われちゃったりしていて、ちょうどしょーちゃんたちともそんな話をしていた時で。ああもう、僕はこの場所に行くんだろうなと、すっかり抵抗をやめて流れに身を任せたのだった。
「なにその縁キモッ」
なんて言って、しょーちゃんと松尾氏は大笑いしていたのをよく覚えている。
除霊でござる
近所の神社でレコーディングの成功をお祈りしてから現場に入ったのだけど、和歌山に向かう道中から僕の体調は非常に悪かった。現場に着いてからはどうも気持ちが落ち着かず、ワカさんに挨拶を済ませたら、隣りの広場に行ってみたり立派な庭を歩き回ったりして、ソワソワとした時間を過ごした。
一通りのレコーディングが終わって、親睦会的なムードになった。話しによると、その筋ではかなり有名な人たちが集まっていたらしくって(一番強力な初対面のマダムに「あ〜久しぶり〜。夫婦してた時以来ね」なんて言われた時はひっくり返るかと思った)、しょーちゃんに促されて、僕は刃物傷が体の右側ばかりに着くことが気持ち悪いのだと、話題を切り出した。刃物傷だけに。
言い終わるやいなや、僕の周りにわいわいと人々が集まってきて、あれよあれよというまに取り囲まれた。左隣ではワカさんが僕の背中に右手を当てて、右側では前世の奥さんが僕の右腕に両手を当てている。その間僕の右腕は全く感覚がなくて、体も自由に動かなくて、何が起こっているのか分からないままずっと戸惑っていた。
そのうち、前世の奥さんが中庭に目をやってから、「終わったよー」と言った。ふあーと放心してぼんやりしていたら「右腕のないお侍がついてたよ」と言われた。中庭にまだいるから回り道して帰ってねーということで、僕たちはせこせこと大きな家の中を回り道して帰った。
何が変わるでもなくってですね
そんなこんなで結構な事件だったのだけど、別に僕の精神世界が花開かれるとか、劇的な幸運が舞い込むとか、それまでの悩みが絶滅するとか、そんな奇跡は一切起こることもなく。ただ、和歌山から大阪に帰って松尾氏の家に泊まった時、僕の背中を触ったしょーちゃんが
「うおー、めっちゃきれいになってるわ」
と感動していたのをなんとなく覚えている。あの時あの場所で会った人たちとは、その後全く会っていない。まさに一期一会であった。
音楽にせよマーケティングにせよ、割とゴリゴリのビジネスの世界で生きてきながらもスピリチュアルの世界に片足が浸かっているような人生が続いている。これも昔から変わらない。だからこその楽しみを、これからも探求していきたいものである。
かわいい幽霊などいない。絶対だ。
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