今日からほぼ一週間の東京ツアーである。ツアーといっても形のあるライブへの出演は2回だけで、あとは仕事の勉強をしていたり弾き語り教室を開催していたりする。
働くことというのは、とても簡単で難しい。これは音楽のライブのようにちょっと特殊なスキルの必要なものでも、僕が初めてやったアルバイトだったコンビニのレジ打ちでも変わらない。
仕事を一言で言えば、圧倒的に人の役に立つことである。どう役に立つか、という形が違うだけで、その本質はどの職業にしても変わらない。だから現場に居る時は、我を捨ててどうすればそのお客さんを幸せにできるかを徹底的に考えて、実践していればいい。論理は簡単なんである。
ところが、我を捨てることが大変に難しい。良い仕事をしたら褒めてもらいたいし、出来るだけ遣り甲斐のある仕事を回してもらいたいし、何かミスをしたら庇ってもらいたい。この、「僕が」「僕を」「僕に」というのが、我である。
この我を捨てられないでいると、お客さんに喜んでもらえないどころか、迷惑を掛け嫌われてしまうこともあるから注意が必要だ。
先日洋服を買いに行った時のことである。積み上げられていたシャツを広げて見つめていると、ショップ店員のにーちゃんが何やらギリギリ聞き取れないボリュームでもって話し掛けてきた。何かお探しですか?とよく言われるアレを言われたのかと思い
「ん〜、まぁ、別に」
と言葉を濁したところ
「それはよかった!」
と大変な笑顔になった。この人は一体何を言ったのだろうと愉快な気持ちになって話しを聞いていると、どうやら兄ちゃんは
「この辺に並んでるの全部うちの自社ブランドなんっすよぉ」
なんてことを嬉しそうに喋っている。だから何だというのか。僕が欲しいのはこのクールなイケメンをさらに七色に輝かせ、すれ違う女性を端から煩悩の渦に叩き落としてくれるような魔法の法衣である。その製造元がユニクロであろうが、このにーちゃんの店の商品であろうが、はっきり言ってどうでもいい。
僕は明らかに怪訝な顔をしていたろうが、にーちゃんは止まらない。
「いやぁ普通だったらこんだけ自社製品でフェースとらないっすからねぇ」
もうこのにーちゃんは自社ブランドの服が誇らしくてしょうがないようだ。そこまで付き合った時点で僕は、この軽薄な男が一体この話しをどこに落とすつもりなのか、そればかりが気になっていた。
「・・・」
終わったもの。そりゃあそうだもの。おたくの品物がおたくの店の中でどんだけ面とってても、すごくどうでもいいんだもの。
しかし、このまま会話が終わってしまっては彼の真意が理解できない。仕方なく僕の方から一歩踏み出してみることにした。
「普通のお店はもっと自社製品は小さく出すんですか?」
「そーぉっすねぇ」
「・・・」
「・・・」
終わるもの。終わるに決まってるもの。自分でそれ以上広げられない話し振ってるんだもの。
僕はこの解き放たれた弓矢のようなにーちゃんにそそくさと別れを告げ、隣に居た別のお姉さんの勧めでオレンジのシャツと花柄のポイントが可愛いトップスを購入した。
お姉さんに誘われレジに行くと、さっきのにーちゃんがレジを打ってくれた。にーちゃんはタグをスキャンしながら、
「これ、うちのブランドなんっすよ」
と言って、ヘリウムガスよりも軽い笑顔を浮かべた。
その時買った、ヘリウムにーちゃんの店のオリジナルブランドの服。
Information
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ゆったりお食事やお喋りの楽しめるラウンジパーティー形式のイベントです。
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