紙ヒコーキ。
誰しもが作ったことのある空飛ぶおもちゃである。
空気の隙間を縫い、風に乗ってどこまでも飛んでゆくその姿は、子供たちに大きな興奮と可能性の広がりを指し示してくれる。
先日Facebookをぼんやりと眺めていたら、知人の方が紙ヒコーキの作り方に関する動画をシェアしていた。
事務所を構え、日々の業務に追われる今だからこそ、もう一度情熱と可能性を感じなさい。
そう言われた気がして、僕はその動画を食い入るように見つめ、手元にあったコピー用紙で紙ヒコーキを折り始めた。
折り目を付けて紙をたたんでゆく。
どうやら少々特殊な形状をした紙ヒコーキになるようだ。
もう大人なのだから、いつまでも誰かに教えられたかりそめの常識に捕われているのはナンセンスである、そんなメッセージを感じる。
なんだかよく分からない折りをしなさいという指示が出た。
前方を重くするための折りだろうか。
角度を調整しながら折り進めるうち、僕の好きな『到達方法の分かる目標は、目標として小さ過ぎる』という格言を思い出した。
プロセスが想像できるような目標と、想像通りのプロセスを繰り返すだけでは、クリエイティブとは言えない。
一瞬でも疑念を感じた自分を恥じながら、僕は黙々と折りを進めた。
気が付くと謎の段階に到達していた。
何だコレは、ミサイルか何かだろうか。
全く想像も付かないが、革新は常に常識の外側からやってくるものだ。
僕に出来ることは、今新たに経験している新しい出来事を笑顔で受け入れることだけである。
常識の外過ぎる。
漫画トリコもHUNTER×HUNTERも、それまでの人類の世界の外側には大きな大陸が存在した。
それは新たな挑戦と旅立ちを示唆するものであるのだけれど、総じて共通しているのは、通常の人間がボロクズのように命を落とすほどに過酷な環境であるということだ。
僕はもしかしたら、大変なものを生み出そうとしているのかもしれない。
デデーン
違う、そうじゃない。
僕は紙ヒコーキを作っていたのだ。
断じてこんな気持ちの悪いものを作りたかった訳ではない。
足?足あるよ?
何なの?
飛ばないの?
走るの?
どうしたいの?
若干パニックに陥ったが、大丈夫。
足こそあれ、こいつは紙で出来ていて、一見ちゃんとした翼もある。
足があると翼というか羽という感じではあるが、とにかく、ヒコーキとしての形状は残しているのだから、飛ぶはずだ。
さぁ、その羽で空気を掴み、その足で世界を駆け上がって見せろ。
ぶわぁっ
くちゃあッ
べちゃあッ
ずしゃあッ
足ヒコーキ「あきまへんわ」
ふざけるな。
結構難しくて時間も掛かったのに、まるで飛ばねぇとはこの紙切れどういう了見だ。
僕は怒りに肩を振るわせながら、制作動画を改めて見直した。
そして
「バランス良く折れれば結構飛びます。」
という文字が目に入った瞬間、大変な衝撃を覚えたのだ。
そう、この世は常に絶妙なバランスで成り立っている。
足ヒコーキにこの形を与えたのは、他ならぬ僕自身である。
その足ヒコーキが飛べないのだから、当然責任は、この世のバランスにマッチしないものを作った僕にある。
怒りは収まり、次いで恥ずかしさがこみ上げてきた。
どうして僕は一発目から完璧な完成を目指したのか。
今まで何個も作ってきたスタンダードな紙ヒコーキでさえ、飛ぶものと飛ばないものが別れるのだ。
その差は、実に繊細で細かなところにある。
大切なのは折りを重ねる中でその機微を感じ取り、次の折りに反映させることである。
僕は新たな紙を取り出し、自分への挑戦を続けることにした。
三匹できた。
少しずつ上達し、三匹目などは動画の助けを借りずに折り切ることができた。
人の成長する力とは、かくもすばらしい。
床に置くと虫感が尋常ではない。
本当に踏ん張っているように見えるから、今にも羽を引きずって走り出しそうだ。
僕は彼らを捕まえ、近所の公園に行くことにした。
先ほど室内で上手くいかなかったのは、ちょっとした風の流れが無かったからではないかと考えたのだ。
足があれども彼らはヒコーキである。
ヒコーキとは、風の中を泳ぐものだ。
閉ざされた室内で飛べなかったからといって、それは構成なジャッジであるとは言い難い。
昔テレビで見た、海産物の卸売り市場でエビを束ねて持っているおばちゃんを思い出しながら公園にやってきた。
祝日ということもあって、子供たちがサッカーなどをして楽しんでいる。
手元を見ると、足ヒコーキ2号が小さな虫にたかられていた。
仲間だと思われたのだろうか。
そういうリアリティ、求めてないから。
とはいえ、ようやくの室外である。
僕は彼らを持って身構え、投擲のために小さく振りかぶった。
さぁ足ヒコーキ達よ、風を掴み、その足で空を駆ける様を、僕に見せてごらん。
足ヒコーキ1号「くしゃッ」
足ヒコーキ2号「かしゃッ」
足ヒコーキ3号「べしゃッ」
僕「・・・・・・・・」
僕「帰るわ」
飛ばないものは飛ばない。
ダメなものはダメ。
深い学びと大きな傷を背負い、僕は事務所へと引き返した。
時計と見ると、2時間近くが経っていた。
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