まるでこの世の理からネコだけがぽっかり抜け落ちてしまったかのような日々であった。
前回ネコの下半身をカメラに収めて以来、捜索隊をあざ笑うかのように、ネコはぷっつりと姿を消してしまったのだ。
ネコのいない街。
ネコのいない路地裏。
ネコのいないネコ写真ブログ。
僕は半ばあきらめつつあった。
「日々撮影するネコの写真と僕のウィットなジョークでもってブログのアクセス数をアップさせよう。」
「そしてゆくゆくはブログファンを自分のライブやイベントに引き込み、集客イパーイウハウハザマミロ的人生を生きよう。」
という純朴なる青年の夢は「ネコの写真が撮れない」という予想だにしていなかった障害に阻まれ、静かに潰えようとしていた。
そんなある日、実家の父から画像ファイルが添付されたメールが届いた。
かなり珍しいことなので驚く、と同時に、ひとつの期待が生まれた。
僕の実家にはネコが二匹いる。
もしかしたら父は我が子の危機を機敏に察知し、ここはひとつ、とネコの写真を撮ってよこしてくれたのではないだろうか。
メールを開く操作をしながら、期待は確信に近付いていった。
父の愛をひしひしと感じる。
感謝の言葉を嗚咽に混ぜ、視界を潤ませながら添付ファイルを開いた。
なにこれ。
なにこれ。
なにこれ。
劇的な変化があるわけでもない謎の物体Xの写真が三枚も張り付けられていた。
これ、こんなに必要でしたか?
眉間に皺を寄せながら読み進めると、どうやらこれは今年母が採ってきた奇形のみかんらしかった。
どうひっくり返ってみてもネコではない。
テキストの末尾には
「男性器にも女性器にも見えるやろ」
といった文章が、ここに記載したよりも遥かに下世話な言葉でつづられていた。
因みに父の職業は教師である。
生徒の皆様と保護者の皆様には、心よりお詫び申し上げます。
見ず知らずのご家族に陳謝しているとさらにメールが届いた。
今度は母からだ。
ワンパンチもらってフラついているところに止めを刺されるボクサーのような気持ちで、やはり添付されていた画像を開いた。
ずん。
ずん。
こっちくんな。
奇形のみかんがステップを踏みながら迫ってくる。
素材が斬新過ぎるが故に、実に効果的な演出だ。
三枚目で姿を消したゆきだるまさんの身に何が起こったのか、心配でならない。
っていうか、なんなのこの夫婦。
ということで、長期に渡る捜索の甲斐もなく最後までネコには会えなかった。
愛らしさに満ちたネコの写真を期待していてくれた皆様に対しては申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
山本先生の次回作にご期待下さい。
では。
にゃん。