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とにかく寝ない子どもだったのだと、今でもよく言われる。僕が眠らなかったことで苦労したのは基本的に僕以外の人々なのだけど、唯一僕が苦労したオケージョンは、保育所での昼寝の時間だった。
僕は昼寝の時間が大嫌いだった。もちろん眠れないこともそうだったのだけど、例の鬼のような保母が、寝ていない子どもはいねぇかとナマハゲよろしく見張るのだ。当然、僕は寝ていない訳だから、そして眠れないのに寝ていないと怒られる訳だから、必死で寝ているふりをする。それがたまらなく息苦しかったんである。
「寝なさい」と言われて眠れるはずのない僕だったのだけど、なぜか他の子どもたちは皆見事に寝てしまう。これが不思議でならなかった。元気は有り余っている。好奇心はほとばしっている。夢は無限に広がっている。こんなワクワクするのに、どうしてみんな寝ていられるのだろう。こんな走り出したいのに、どうして僕は見張られながら布団の中に隠れているのだろう。そんなことを感じながら、毎日の昼寝の時間を窮屈に過ごしていた。
ある日、僕の隣りに大好きだった女の子のかなちゃんがやってきた。布団を並べる順番は特に決まっていなかったと思うのだけど、かなちゃんと隣り合った記憶はほとんどない。僕たちは布団をくっつけて、掛け布団の下でコソコソしたり、ヒソヒソしたり、イヒイヒしたりして(イチャイチャまではしなかったかなあ)、夢中になって遊んだ。
突然かなちゃんの掛け布団が剥ぎ取られた。鬼保母が鼻の穴を膨らませて立っていて、「今喋ってたん誰」と言う。この人は、分かり切っていることをいちいち聞かないと気が済まないのだ。
「ゆうさくくん?」
どこかで誰かが言った。
「ちがう」
鬼保母が答える。
っていうか今僕の名前出したやつ、お前も起きてるやないか。
かなちゃんは模範的な幼女であったから、もちろん布団を剥がれて怯えてはいたけれど、その後はすっかりおとなしくなって、昼寝の時間はそうやって終わっていった。ちなみにかなちゃんの布団が剥がれた時の僕はといえば、全力の狸寝入りである。当然起きていることなどバレバレなのだけど、鬼保母の怒りの優先順位は常に最も悪い子どもに向けられるから、かなちゃんが睨まれている限り、僕は大丈夫なのだ。
なんだか酷い話しだけど、だってほら、シマウマだって仲間がライオンに食われてる隣りで草食ってたりするじゃん。あそこは、あの場所はたぶん、弱者戦略というか、いかにしてその他大勢に紛れ込み、監視者の目をやり過ごしつつ自分が被る被害を最小限に抑えながら生きていくかを学ぶための訓練場だったんではないかと、今想像する。
ちなみに、僕は今でも眠るのが下手である。ちょっと体内時計が狂うとすぐに夜眠れなくなる。まさに今ここ数日、それで悩んでいる。かといって眠らなくても活動できるのかというと、まだその域には還れてはいない。あの日見ていたまぶしい光をもう一度思い出すことができたら、きっとその時は、また寝る間を惜しんで走り回るようなやつに戻れるんだろうなあと、なんとなくそう思う。
はやくそうなんねぇかなあ。
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