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哲学者に恋をして
はじめて女の子を好きになったのは保育所に通っていたころだった。同い年のかなちゃんのことを好きになったのだ。
かなちゃんは肩に届かないくらいの長さの髪を、赤い飾りのついたヘアゴムでとめていた気がする。同時の年令の子の中では長身で、顔のパーツはかなりさっぱりしていたのではなかったか。後はどれだけ思い出そうとしてもナチュラルメイクの本田翼が想起されるだけである。あれ、もしかして本田翼って、かなちゃん?
かなちゃんは幼稚園のグラウンドの隅に泥団子のドームを作るのが趣味という哲学者だった(子どもはたいてい哲学者だ)。泥団子のドームというのは、説明が難しいけれど、要は地面から離れていない泥のカタマリである。手の中でコロコロと丸く形成するのではなくて、粘度の高い土と水分(水よりも自分のツバがいいのだとかなちゃんは言っていた)を使って、″地面のニキビ″のような、小さな泥のドームを作るのだ。僕や他の友人も彼女を真似て何度も挑戦したが、クオリティでは全く歯が立たなかった。蹴っ飛ばしても壊れないのよ、かなちゃんのドーム。
彼女はブームに左右されることなく、影に日向にドームを作り続けた。特に保育所の裏門の影は創作活動のベストポジションだったようで、ほぼ毎日新しいドームが作られていた。僕は母の迎えを待ちながら、その日のかなちゃんのドームの出来栄えを吟味したものだった。
紳士である前に男子
僕はかなちゃんの顔が好きだった。注射を嫌がって泣いていても、昼寝の時間に寝ていても、ツバを吐きながら地面に泥のドームを作っていても、とにかく可愛かった。かなちゃんに相対する態度は、いつもかなちゃんと一緒にいた大して好みでもなかった女の子に対する態度とは、明らかに違ったはずである。当時僕は3歳くらいだったろうか。紳士ではなかったかもしれないがしかし、男子ではあったのだ。
ちなみにゆうさく少年は、この28年後くらいにやはり顔とスタイルで選んだ妻(本田翼でない)と結婚することになる。人の本質は、かくも変わらないものである。
あ”あ”あ”あ”あ”か”わ”い”い”い”い”い”い”い”
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