2019年の年末、冬休みにはいる直前。突然弊社のボスが「これをお読み」と本を二冊渡してきた。ひとつは『隠れアスペルガーという才能』。もうひとつは『発達障害とどう向き合うか』というタイトルだった。
これもうあれやん。絶対「お前発達障害やで」って言われてるやつやん。確かに最近のやりとりの中で「っぽいっすよね〜」というやりとりはしていたが、まさか課題図書を出されるとは思っていなかった。
それをへいへいと軽いきもちで読みはじめたら、まあ書かれている内容のハマることハマること。膝を打つったらない。打ちすぎて真っ赤になった膝をさらに打ちつつ読み進めると、「隠れアスペルガー診断テスト」なんてものも載っていたから、試しにやってみた。
15点未満で定型発達。
16〜35点で隠れアスペルガー。
36点以上で病院で診断が出るレベル。
そこそこ面倒なテストをせっせとこなし、自己採点したところ、点数は32点。
32点・・・
32点???
え?ギリッギリやん???
ってことは何、途中でちょっとカッコつけて「今はこれできるようになったからさぁ〜」って気分で回答したところを本当に本当の答えを書いてたら、35点オーバーしてたかもしんないってこと?
いえいえ、そんな大騒ぎすることはござんせん。僕の周りには正直、この人薄っすら発達障害でしょ、と感じている人がいるから、その人達と比べたらまだまだ僕なんか。
そんな気分で正月、母や妻、弟にも同じテストを受けさせ、採点してみた。結果、全員20点代後半で隠れアスペルガー確定。ほら見ろ、ほら、君たちもそうだったじゃないか。ははは。僕の見る目は正しかったんだ。
うん。
うん?
僕、ぶっちぎってね???
こうして僕は、大人になって自分が発達障害の傾向が強いことを知るという、しかも身内の中で最もその傾向が強いという、「隠れ発達障害人」デビューしたのだった。
自分という人間と出会い直す
発達障害のことを解説するのは別の機会に取っておく。そんなことよりも今回の事件を経て、ようやく僕は長いこと掴みどころのなかった自分という人間を少し理解できた気がしている。
たとえば僕は、スケジュールを調整したり、お金の計算をしたり、取り組んでいる物事の抽象度を上げ下げしたり、一度フォーカスした物事に距離を置くことがすこぶる苦手だ。
これらは全てアスペルガーや学習障害といった発達障害の特徴に当てはまるのだけど、僕はそれをただの能力不足、努力不足だと思い、なんとか勉強やトレーニングで乗り越えようと必死になっていた。
特に仕事をする時に苦労したのが、スケジュール管理。そして新しいことを始める時に、仕事の見通しを立てるという作業だった。
どれだけスケジュール管理や時間管理の手法・考え方を学んだり、会計に関する本を読んでみても、理解できない。概念はなんとなく分かる。メディアに書かれている文章も読める。でも、全く頭に入ってこない。身につかない。
ボスから質問をされる度に頭が真っ白になり、こめかみから上が激しく緊張し、冷たい筋が頭頂部までビキビキと音を立てるようにして通っていくのが分かる。
そうか、まだ勉強が足りないのだなと思い、身銭を切り、休日を返上して本やネットで情報を掻き集め、理解したことをボスに話してみても、「何この子何を言ってるのかしら」みたいな顔をされる。そんな状況が3年ほど続いた。結構絶望的である。
だから、自分が隠れ発達障害だということが分かった時は、かなり安心した。ボスはこの手のことに対して懐が深いので(ボス自身が脳性まひのある障害者だということもある)、その後の仕事の割り振りや役割分担についても、かなり配慮をしてくれている。
その結果どうなったかというと、めちゃめちゃ楽になった。山ほどあった「できるけど、しんどいこと」が減った。ストレスによる過食も減ったし、オフィスに行くのが怖くなくなった。
何より、自分が苦手なことが、発達障害に関する情報を発信しているwebサイトに全部載っている。発達障害のプロの方が、その特性を活かす生き方に関する情報を発信してくれている。
内的に発見していくしかないと思っていた自分の輪郭が、ググれば出てくる。本当にありがとう、昔からの偉い人たち。そしてハロー、真実の僕。
冗談ではなく本当に、やっと今から自分の人生が始まるのだと思ったのだった。
自分の使い方がわかってくる
アスペル人は、こだわりの偏りが大きく、社会性が低い。共感能力がなく、状況を俯瞰することも苦手なので、幅広い視野を持ち、ゴールに向かって適切な判断を重ねていくというアクションが必要な物事には向いていない。
おまけに僕は学習障害を併発していて、読み書きは大丈夫だが、計算と類推がすこぶるダメだ(小学校の時、2+3が5になることが理解できなかったというと、色んな人がびっくりする。ちなみに、今でも理解できていない)。
このように苦手なことにフォーカスすると、まるで何もできない人のように見えるけれど、実はそうではない。
こだわりに偏りがあるおかげで、関心を持った物事に対しては他の人よりも早いスピードで情報を集めたり、経験を積むことができる。社会性が低い代わりに、自分自身と深く向き合うことが得意だ。
共感能力の欠如に関しては、関心を持った物事に対する情報収集癖を利用し、とにかく色々なことを教えてもらうことで相手のことを好きになり、NVCのようなコミュニケーションのスキルを組み合わせることによって、人並み以上の対話能力を身に付けることができた。
計算と類推はどこまでいってもダメなので、公言して、家族や仲間の助けを得ている。
僕たちは、心も体も緩んでいる時に一番高いパフォーマンスを発揮できる。これまでもこれからも「やりたいことをやる」「人のやりたいことをやる、をサポートする」という生きるスタンスは変わらないけれど、そのスタンスを現実に落とす時のプランが、大きく変わり始めている。
これからは興味を持ったものを諦めてスルーしなくていい。何かに夢中になって全体の進行を忘れても仲間がサポートしてくれる。僕は、僕にしかできないことをやりたいだけやって、それを発信すればいい。
そしてさらに、僕がかろうじて社会人を続けられている工夫や経験則が、きっと誰かの役に立つという確信がより深まった。障害を得て希望を得たのだ。楽に、楽になりました。
自分を理解する視点は多ければ多いほどいい(おすすめ書籍の紹介)
そんなわけですっかり自分語りの記事になってしまったけれど、たまにはこういうのもいいよね。
さて、今回の記事の主旨は自分の外側に自分の形の手がかりがあることもある、ということだ。そりゃそうだよね。先人達が長い時間をかけて、たくさんの研究を重ねて積み上げた集合知なんだもんね。
発達障害までいかなくても自分を客観視するのが難しいという人は大勢いるので、このことを知っておくのはいいことだと思う。そこで発達障害に限らず、自分理解の助けになると思われる書籍やwebサイトをいくつか紹介して、今回の記事を終わろうと思う。
ちなみにネットで発達障害のことを調べると、ネガな内容に偏ったものもたくさん出てくるので、あまり参考にされない方がいい気がする。では、ご紹介。
隠れアスペルガーという才能
著:吉濱ツトム
今回僕が渡された課題図書のひとつ。行間広くとても読みやすいですな。
発達障害やアスペルガーといった言葉の意味をちゃんと理解してないとうまく理解できないところもたくさんあるます。この辺のサイトを読んで、下準備をしてから読み始めるのがおすすめ。
アスペルガー傾向のある人が陥りやすいポイントや、既に陥っちゃってる人ができる具体的な対策が書かれてます。食事に関する情報が助かったなあ。ロカボと、タンパク質ね。
発達障害とどう向き合うか
著:吉濱ツトム
『隠れアスペルガーとどう向き合うか』と同じ、吉濱ツトムさんの著書。正直『隠れ〜』と内容はほぼ同じで、診断テストも同じものが載っているのだけど、ちょっとだけ視点が違う。
どちらかだけでもいい気がするけど、悩んだらこっちがいいんじゃないかな。知らんけど。
ザ・メンタルモデル
著:由佐美加子/天外伺朗
カウンセラーとして膨大な数の人々の心と向き合ってきた由佐さんが、その経験から人の心の傾向を4つの「メンタルモデル」に分類。
それぞれのモデルの思考のフォーマットを解説するだけでなく、どういうゴールを目指すと幸せ度が増すのか、というところまで踏み込んで語ってくれています。たくさんのセッションのやりとりがそのまま書き込まれていて、分厚いけどサクサク読める。
ちなみに、モデルの概要だけサッと読んでも自分のモデルは分からない。最後まで読み通して、やっと自分がどのモデルに含まれるのかが腹に落ちるという不思議な名著。
心が風になる(心屋仁之助公式ブログ)
言わずと知れた心屋仁之助大師匠のブログ。この中でちょっと前に「前者・後者」と「ふーん族・めっちゃ族」という議論が盛り上がったのだけど、これが中々面白いのです。
どこかに集約的な記事があるわけではないので、大師匠や心屋のお弟子さんたちが各々書き綴った記事をたくさん読むと、ちょっとずつ自分ごとに落とせます。
ちょっとハードル高いけど、生々しさはピカイチなので、余裕があったらぜひ。