みかん畑の暇と狼狽。

じーちゃんがみかん畑に行くというので、最近ずっと家の掃除ばかりだったから、ついていくことにした。以前から言っているように我が家のみかん畑はとても小さいので、普通のみかん農家が毎日作業をしなければならないところを時々に隙間が出来るのである。

実は今ちょうどその隙間の中で、せっかく実家にいるのに畑仕事がない。他の用件があるので居る意味はあるのだけど、それでもやはり通販のご注文をいくつも頂いているから、きちんと経過の報告はしなければならないというイケメン的義務感に駆られたんである。

畑に着くとじーちゃんはその辺の草を切って束ね始めた。何か手伝うことはあるかと聞くと

「はいやいやァ」

と言うので、

「おっけぇ」

と残して畑の探索に出た。

前にこの畑に来たのは2週間ほど前だ。その時と比べると、明らかにみかんの玉がでっかくなっている。中には若干の黄色みを帯びているものもあって、間もなく収穫の時期という感が凄まじい。

よく植物のことを話す時に「太陽の恵みを受けて」と表現するが、実際隣りで見ていると恵みを受けるどころかつかみ取りにいっているというようにしか見えない。何が何でも枝を伸ばし、何が何でも葉を広げるという気合いが伝わってくる。それくらい彼らはストイックなんである。

命の力に触れてエネルギーに満ちていると、みかん畑の道具を置いている小屋の、その隣りに置いているタルの中に、おたまじゃくしが泳いでいるのが目に入った。この時期のおたまじゃくしは、たしかヒキガエルだかウシガエルのそれのはずである。ちょっとした水辺を見つけては卵を産み、その厳しい環境の中で育っているおたまじゃくし。これもまた、命の力である。

ピコピコと泳ぎ回るおたまじゃくしを見ていたら、足下に小さなカエルがいることに気付いた。どう見てもおたまじゃくしよりも小さいので、別のところで変態した別種であろう。僕はその小さなカエルをひょいと手のひらに乗せて、しばらく睨めっこをして遊んだ。

彼らからは、この世界がどう見えているのだろう。僕たちの認識というのは、とどのつまり脳の機能である。脳組織を破損した人が正しく世界を認識出来なくなるのと同じように、違う形状大きさ接続を経た脳を持つ他の動物達は、人間のままでは理解出来ない認識の中で生きているに違いない。

そんな生命のロマンにうっとりとしていたら、カエルがなんかどっか行きたいねんワシ的な所作を見せた。おお、こりゃスマンとして、僕はちょっと肌の乾いていたカエルを湿らせようと、さっきまで覗いていた瓶の中にカエルを落とした。

その時だった。水の中に入ったカエルは2度ほど濁った水を蹴ったかと思うと両手両足をいっぱいに広げて動かなくなり、中空を睨みつけたままゆっくりと水の中へと沈んでいった。

「えっえっえっ」

僕は激しく狼狽し、ほのぐらい闇の中へと沈んでゆくカエルと見つめ合った。なんで?お前泳げるんじゃないの?え?なんで泳がないの?え?

気が付くとカエルの姿はすっかりと瓶の中に消えてしまっていて、その水面にはいくつもの波紋が、おたまじゃくしの尻尾が揺れる度に描かれていた。みかんの木が風を受けてさやさやと歌を歌う。じーちゃんが何かをハサミで切る音がする。小さなカエルは、上がってこなかった。

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