崩壊!マロッタさんと勇気の絆。

アメリカのカンザス州で子供を求めた女性同士のカップルに精子提供をした理解の深いおじさまマロッタさんが、その後子供の養育費を請求されるという事案が発生している。マロッタにしてみれば、好意で取った行動が仇となって返ってきた冗談のような話しだ。

詳しい話しは端折るが、出産後関係が破局したカップルの子供を引き取った側が体調を崩し働けなくなったため生活保護を州に求めたところ、州当局がマロッタさんに養育費の支払いを命じたというのだ。州法ではマロッタさんが父親、という扱いになるらしい。しかし、

「法律がこうだから、あんたが養育費を払うんだ。払うったら払うんだもんね。」

というのは、いかにも思考停止の低レベルな決定である。敵は法ではなく、それを絶対と崇める人間だ。マロッタさんには、ぜひとも戦い打ち破って頂きたい。

このように、自らの好意が転じて仇となり返ってくることは非常に多い。好意を行為に起こすに当たってもリスクヘッジが必要であるのだから、油断ならない世の中である。

マロッタさんはこの女性カップルが幸せな未来を手に入れるための決断を応援するため、精子を提供したに過ぎないのだ。彼女達は子供を授かり、幸せだったはずである。その後彼女達が破局したのは、彼女達の問題である。

にも関わらずその余波は州当局で増幅され、マロッタさんに襲いかかった。ちょうど、僕がよかれと思って買っていったチーズケーキを飲むように食らい尽くした彼女様から

「お前のせいで太ったからなんとかしろ」

と言われたことに似ている。僕はただ、彼女様の喜ぶ顔を見たかったのだ(その他「ものを食べている時は怒り出すことが少ないから」「お腹がいっぱいの時は暴れ出すことが少ないから」「「チーズケーキどうだった?」と聴くと思い出して静かになることがたまにあるから」といった理由も含まれる。)。差し出したチーズケーキをどれだけ食べるのか、どのような食べるのかは、彼女様の勝手である。にも関わらず、

「そもそもチーズケーキを持ってくるのが悪い」

といった論に訴えるのは、事故を起こしたドライバーが自動車メーカーを訴えるようなものだ。道具や手法は単なる道具と手法でしかないが、それを幸せのために使えるかどうかは常に使う側の人間に委ねられている。万が一不備があった時のフォローはするが、その使用に伴うユーザーの不手際までフォローするというのは、自立した人間を相手取るに当たっては実にナンセンスである。

心折れそうになっていた僕はこのマロッタさんのニュースを見て、この世の不条理と戦う戦士が少なくとももう一人いることにとても励まされた。目の前でいきり立つクビレを失いつつある女に、決して勝てないまでも、多少の抵抗を見せようという勇気が沸いてきたのだ。

僕はマロッタさんの記事を読んでいる途中で彼女にメールを打った。

「僕は君に喜んでもらいたくてチーズケーキを買っていったんだ。本当はタヌキの置物でも、柿の木の苗でも、バケツ一杯に汲んだ寝屋川の水でもよかったんだ。だけどそこで君のことを想ってチーズケーキにしたんじゃないか。それを受け取った君がまるでそういう妖怪のようにグビグビとチーズケーキを飲み込んだのは、君の意思だったはずだ。僕は君の意思を尊重しているし、触らなくても祟る神だと思っているから極力近付かないようにしているはずだ。僕に非はない。」

こんなにハッキリと意義を申し立てたのは何年ぶりだろう。もしかしたら初めてのことかもしれない。共に戦う仲間が海の向こうにいる。彼の存在が僕に勇気をくれるのだ。

メッセージを投げた気高い気持ちのまま、僕はその記事を読み進めた。頑張れマロッタさん。負けるなマロッタさん。声援を送りながら記事の下部に差し掛かったところで、衝撃的な事実が判明した。なんとマロッタさん、精子を提供する時に医師を介入させずに契約を結んだのだそうだ。それが原因でマロッタさんは非常に立場が弱くなっていうということだった。マロッタさん、いくらなんでもそれはマズい。

唖然としているとケータイに着信があった。メッセージではなく、電話だ。iPhoneの高解像ディスプレイに、それはもう鮮明に、彼女様の名前が表示された。

marotta-exp-cohen-and-sperm-donor-and-child-support

マロッタさんの記事はこちら

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