僕とウパのナニ巡り。〜行川アイランド・急章〜

それはそれは騒がしい2時間半であった。海ほたるとの事故的な逢瀬の後ようやく行川に向けて走り出したウーパーカーは小さな車体を懸命に振るわせ、僕とウパはやはり記憶と記録に残らない会話をせっせせっせと積み重ねていた。唯一思い出せるのは、高速道路の各所に設置された”獣飛び出し注意”の看板に描かれているイノシシのシルエットがあまりにやる気満々である、という話題くらいだ。

ウパ「あんなものに突っ込まれたら、俺たちどうなっちまうんでしょうねぇ。」

そう言って嬉しそうに嗤うウパの横顔は、今でもよく覚えている。彼はこの先、大丈夫なんだろうか。

行川アイランド、その実在

単線線路の流れを濁すように、行川アイランド駅は建っていた。比較的新しく見える駅舎は雨除け程度の規模であって、そこにはホームと外部をサービスという名の壁で分断するための改札施設が存在しない。当然駅員が常駐している訳もなく、山々を駆け下りてくる太平洋の風がごうごうと音を立てて、この駅を過去へと追いやっていた。

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ここから行川アイランドに向かうには、駅を出て線路沿いに少し歩くことになる。ベニヤで打ち付けられ封鎖されたトイレ、酷いサビで劣化摩耗しへし折れた藤棚、かつては切符を切っていたのであろう荒廃したゲート。廃墟は、もう始まっていた。

道路を跨ぐ陸橋をじっくりと渡る。ウパが「これは役割りとしては舞浜駅からディズニーランドに行くまでの陸橋と同じですね」などと言う。ケタケタとしながらも在りし日を想い腰と尻の間あたりを締め付けるものを楽しむ。途中JRのジャンパーを着たおじさんとすれ違った。少し離れたところに広い駐車場跡地が見えてきて、管理小屋からのそのそと出てきた管理人が軽自動車で走り出す。かつて多くの家族を迎え入れたゲートが、燃え尽きたように佇んでいた。

大きな陸橋を渡ると、海側に屹然と立ちはだかる山の麓に赤茶けた屋根がいくつか見えた。そのうちのひとつが、かつて多くの家族連れを受け入れたチケット売り場である。僕たちは階段の下まで歩いていくと、ふたりでそう高くない、さびれた階段を見上げた。

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階段を上がって左手がチケットの販売ブース、右手がゲートになっていて、客が列を作る為のガイドとなる手すりが残っていた。階段正面には「ショータイム」と書かれた看板が上がっていて、もちろん、何も書かれてはいなかったのだけど。

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この辺りは既に動画の撮影が始まっていて、ウパがタレントじみた動きを見せていた。受付嬢が立っていたのであろうボックスの中に立つウパにチケットを渡す素振りを見せつつゲートを通り抜け、左手へと体を向ける。レジャーランドの入り口であったと言われてもちょっと信じられないような重々しいトンネルが、鉄と木の柵と防犯カメラで更に頑な様相を呈していた。

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柵の隙間から覗くと向こう側に不自然なくらい茂った緑が見えて、道中の配線むき出しの冷たいコンクリート壁からは南国風の鳥のオブジェが、どちらかというと不気味な雰囲気を発しながら突き出ていた。

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神々しきウパの企み

柵の間から中をウットリと眺めていると、すぐ後ろに管理人の乗った軽自動車が迫っていた。ウパが

「俺今、見られていることを感じました。あの管理人、ウーパァー家の人間のボディを持っているのかもしれません。」

などとほざく。廃墟に触れているヤツは本当に幸せそうだ。

ちょうどトンネル内の景色に飽きてきていたところもあり、自動車と入れ替わるようにその場を離れる。管理人を威嚇するように怪しげな音を発するウパにカメラを向ける。

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なんか神々しくなった。

我々の見ていない行川アイランドの全貌を撫でてきた風と日差しが、この両生類を照らしてやまない。

ウパ「優作さん、行きますよね。」

方向転換をして走り去ってゆく軽自動車を横目に見送りながら、ゴッド・ウーパーは新興宗教の教祖のような、優しい笑顔を浮かべていた。