ツアー用のエレアコを事務所に置いてきたので、いつもは1人で2人分の体積を必要とする僕も、今日は実に軽快に電車の座席をキープし、爽やかにMacブックのエンターキーなんかを
「ッターンッ」
とかやっちゃったりしていたのである。
いよいよ構えることとなった事務所(賃貸契約上は住居だけど)の最大の利点は、その立地だ。大阪環状線京橋駅から同志社方面に向けて片町線、または学研都市線と呼ばれる線が走っている。僕はその道中にある、放出(はなてん)という町に事務所を構えた。
この放出という駅が非常に優秀で、大阪梅田まで徒歩圏内の北新地、僕が月一で定期ライブをしているD45というお店のある南森町まで一本。快速で一駅の京橋駅は実家の和歌山までスィーと流れてゆく紀州路快速が止まるし、あと数年で新しい線が通ってなんと新大阪に直通でアクセスできるようになるという。
この夢のような立地に事務所を構えたもんだから、僕としてはんもうウハウハである。なんだか事務所さえあれば、それで大丈夫なような気にさえなる。テーブルとホワイトボードの位置関係が事務所っぽくって、わざと廊下に出て扉を開いては
「ううむ、事務所である」
と頷き、ロフトの上の寝床からフローリングを見下ろしては
「ほほう、事務所であるな」
などと薄いアゴヒゲをサワサワとやったりするんである。これが非常に気持ちがよろしいんである。
せっかくそんなナイスアクセスなところに事務所を構えたものだ。僕としては破損のリスクや体力的なリスクを伴う楽器運搬の労力は極力抑えたい。であるから、ツアー用に購入したアート&ルシアーズというメーカーのエレアコを事務所に待機させ、和歌山の実家にいるときはメインギターであるマーティンのD28で制作や練習を嗜むという手法に打って出た。
これが素晴らしい。まだノーギタートレインは片道しか走ってはいないのだが、中型のトランクを持っているとはいえ、非常に軽快である。あまりに軽快過ぎて、乗換などで電車を降りる時に
「あれ・・・背中がフワフワして・・・あれ・・・?」
と、小学生時代にランドセルを忘れて家を出た時のことを思いだすほどだ。同じ通学班にいた同級生達は、どうして僕がランドセルを背負っていなかったことを指摘してくれなかったのだろうか。山本の一人やふたり、どうなってもいいと思われていたのかもしれない。許さないぞとしゆきくん。
ということで、京橋で軽快な乗り換えを演出した僕は紀州路快速に乗って、悠々と膝の上でメルマガの記事を書いたりしていたのである。あまり知られていないが、Macには、エンターキーを
「ッターンッ」
とやると、仕事が出来る男になる(と錯覚する)機能が搭載されている。当然Windowsでも似たような効果が得られるが、この世のどこかにあのリンゴマークのノートPCをクールに
「ッターンッ」
としている自分が見えるアングルがあるのだという事実は、その比ではない。運悪くそのホットスポットに居合わせてしまった女性などは一目で僕の虜になり、あのクールなイケメンがスマートなノートPCを軽やかに操作しながら一体どのような難解なミッションに挑んでいたのかを想像しては毎夜胸を高鳴らせ、また会いたい気持ちの溢るるを如何ともし難く、涙など流すのである。イケメンの罪は重い。
そうこうッターンッしていると、車掌のお兄さんが通路を歩いていった。僕は慌ててお兄さんに声を掛け、切符の支払いを申し出た。
放出という駅の数少ないの問題のひとつは、僕の実家の最寄り駅までの切符を券売機で購入できないことだ(その他にも「彼女の家に近い」「事務所の上階から女性の咽び泣く声が聞こえてくる」などがある)。そのため、実家に戻る時は、どうしても電車の中で乗り越し清算をしておかなければならない。最寄り駅には、精算機などというナウでヤングでトレンディな機器など設置されていないのだ。
そこで乗り越し金学700円を支払おうと10200円を差し出したところ、お兄さんが
「お返し、細かくなっちゃってもいいですか?」
と聞いてきた。それぐらい、別に構わない。確かに
「ッターンッ」
が似合う男には、お札で分厚くなった財布は似合わない。しかし、支払いのお釣りが細かいとブツブツ文句を垂れるのは、もっと似合わない。9000円分の千円札を渡されることくらいで、いちいち目くじらを立てていては、クールなイケメンの名折れである。僕は爽やかな笑顔を浮かべてお兄さんに
「いいですよ。こちらこそ、大きいのしかなくてごめんね。」
と声を掛けた。もし僕の隣りに女性が座っていたら、その気遣いに一撃でやられ、不幸な女性を増やしてしまっていたところだ。隣りにいたのが麒麟の淡麗を片手に裂きイカを食べているオヤジでよかった。
胸を撫で下ろしながらも頬笑みを放ち続けていると、お兄さんは
「ありがとうございます。すいません。」
と安心した顔をして、手元の端末を操作し始めた。
「それ、タッチパネルなんですか?」
「そうなんですよ。昔はボタンだったんですけど」
「揺れてる電車の中だと操作し辛そうですねw」
「ボールペンで操作する特殊な技能が要りますよw」
お兄さんと気さくなジョークを交わし、僕は軽やかな旅人気分を満喫していた。地元駅の遠さも、お釣りが細かくなることも、こうやって楽しんでしまえば、何と言うことはない。むしろお釣りが細かくなってしまうからこそ、こうやって歳の近いお兄さんと楽しくお喋りをする機会が得られるのだ。イケメンとしては、想定通りの楽しみである。予想に反していたのは、お兄さんが出してくれたお釣りが7枚の千円札と2枚の500円玉、そして15枚の100円玉で形成されていたことだった。
「どうも、すいませんでしたー」
お兄さんは爽やかに頭を下げ、お札を補充しに帰っていった。ダンベルかと思うほど重量を増した財布が、左手の中ではちきれんばかりに膨らんでいる。隣りのオヤジが裂きイカを噛む音が、今までよりも耳障りに感じられた。
Information
山本優作ワンマンライブ〜Stand & Fight〜
■会場
bar yay a ebisu
東京都渋谷区恵比寿1-12-7三恵ビル3階
2014年9月14日(日)
19:00 open
19:30 start
21:30 end
■ゲスト出演
柴田ヒロキ(Vo.Gt)
予約3000円/当日3500円
※どちらも1ドリンクついてます。
※お客様は15名限定とさせて頂きます。
■ご予約は
accr.mail@gmail.com
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