大根おろしを簡単に作る方法。「まず従順な恋人を用意します。」

事務所の玄関から鉄が激しく擦れ合う音が聞こえたかと思うと、次いで「バン」「ガツン」などといった荒々しい音が聞こえてきた。
仕事の合間にほうじ茶ラテを楽しんでいた僕は、我が身の平穏が二度と取り戻せないことを即座に悟った。

彼女様「アルポンス作るから部屋貸して。」

何を言っているのかよく分からないが、僕に拒否権がないことだけは分かる。
この女は僕の生殺与奪の権限を全て保持していると信じている、ジャイアニズムの権化のような存在なんである。
教祖であるジャイアンは映画で良いヤツになるという特性があるが、残念なことに僕たちの生活が映画化される予定はない(タイトル「万が一君が優しかったなら」主題歌「アンダー・ザ・ヒップ」作詞作曲:山本優作)。

彼女様は僕の返事を待たず、どかどかと様々な音を立てて室内に入ってきた。
どうすれば歩くだけでこれほどの騒音を出すことができるのか不思議でならない。

机の上が僕の仕事道具で埋まっていることを確認した彼女様は、息をするように若干の悪態(ほんの5〜6言である)を吐くと、床に設置していたビデオカメラと丸椅子を部屋の端に追いやり、そんなに必要ですかと問いたくなるほど広範囲に作業道具をばらまいた。
30秒以内に机を明け渡せとテロリストのような要求をしない分、この9年でいくらか丸くなったといえる(本人は初めから丸いと言っているが、僕の口から「丸い」と聞くと血相を変えて襲いかかってくる)。

僕「アルポンスって何?人体錬成とかするの?僕持っていかれるの?この部屋ホワイトボードくらいしかないんだけど、僕の魂ホワイトボードに定着させられるの?」

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こんなに悔しがってくれるかどうかは疑問。

アルポンスは、彼女様がやっているオンラインゲームのキャラクターらしい。
詳しいことは全然分からないけれど、そういえば以前大根おろしアートで作ったキャラクターがアルポンスだとか何とか言っていたような気がする。
立派な大根を丸々一本しゃこしゃこと擦り下ろしたのが、つい昨日のことのように思い出される。

僕は気付かれないように溜め息を漏らすと(バレると二度と息が吸えなくなる可能性がある)、多少の雑音があった方が仕事も捗るのではないかと思い机に向かい直した。

彼女様「ティッシュとって」

彼女様「めっちゃ上手いこと切れたちょっとこれ見なさい褒めなさい」

彼女様「キッチンペーパーとって」

彼女様「はんぺん買ってきて」

彼女様「ここ上手いこといかんねんイライラする殴っていい?(ゴッス)」

全く集中できない。
解体工事の真っ只中で仕事をしているような騒々しさである。
多少の雑音とか、そんな生易しいものではない。
定期的に「そっちの仕事は進んでいるか」と聞いてくる横顔が、奴隷を使い潰す悪徳商人に見えてきた。

悲しい気持ちを立て直すために、部屋を出て自動販売機で缶コーヒーを買って飲む。
世の男性同士達は、一体このような窮地続きの人生をどのように歩んでいるのだろうか。
冬の空を見上げると、全員が全員助かっていないのではないかという思いにかられ、泣きたくなった。

しかし、甘えたことは言っていられない。
自分自身の夢のため、僕は働かねばならないのである。
そのためには今夜のブログをひとつ、きちんと仕上げる必要がある。
意思を固め部屋に戻ると彼女様が仁王立ちで待っていて、地の底から震えるような声でこう言った。

彼女様「愛してるわダーリン」

その手には立派な大根と、おろし金が握られていた。

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前に彼女様が作ったアルポンス鍋。
「アルポンス」で画像検索すると1ページ目にヒットする強者。
ちなみに、今何を作ってるのかはまだ分かりません僕大根おろしただけなんで。

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