主語を介さない女性の会話とラーメンギョーザチャーハンセット。

先日、じーちゃんと餃子の王将にお昼を食べに行った時のことだ。ラーメンギョーザチャーハンセットの想像以上の量に目を白黒させながら胃拡張を進めていると、隣りの席でラーメンギョーザチャーハンセットをペロリと平らげていた学生風のレディが2人、スマホを片手に何やら話しをしていた。

A子「なーなぁ、これ、C子の彼氏なんやけどなぁ」

B子「えーめっちゃ気になる、ちょっと見してよぉ」

和歌山弁の朴訥とした様子が文書からも滲み出るが、まぁそれは置いておいて。まだまだラーメンもギョーザもチャーハンも半分以上残っていたから、僕は少しでも気を紛らわせようと彼女達の会話に耳を澄ませてみたのである。

A子「これやでぇ」

B子「うわ、めっちゃいけてるやん。」

A子「でもちょっと微妙ちゃう?」

B子「あーそれは言えてるなぁ」

気を紛らわせるには絶好の会話である。これだけ読んでみると彼女らの身に何が起こったのか不安になってくるが、僕は過去の経験(彼女様から「ちょっとアレやっといて」と言われ、アレが何であるかを推察し、ミスをせずに彼女の期待通りにこなさねばならないという危機的状況)から、女性は会話の中に主語を含めない生き物であることを知っている。それを理論で言いくるめようなどと言語道断。普段の会話や目の動き、何より心の眼でそれらに向かい合えば、自ずと道は開かれる。

なお、僕は今の彼女様とは8年ほどの付き合いになるが、普段の会話が噛み合っておらず、目を見つめる度胸が無く、心眼などというスキルを持ち合わせていないという点を除き、理想的な付き合いが出来ている。八方塞がったイケメンの未来はどっちだ。

それはともかくとして、彼女らはこのたった2往復のやり取りの中で一体何を言い合っているのか。写真はビジュアルを残す媒体であるから、当然その会話は「C子の彼氏のビジュアル」と想像できる。が、表面上の文章だけでは、

B子「うわ、めっちゃいけてるやん。」

A子「でもちょっと微妙ちゃう?」

が繋がらない。「めっちゃいけてる」という評価に対し、「ちょっと微妙ではないか」という意見をぶつけるには、文章の接続接続部分は「そう?」や「なんで?」といった言葉、あるいは「何も挟まない」方が自然だ。しかしB子は何の迷いもなく「でも」を選んでいる。これはつまり、A子が「めっちゃいけてる」と判断した項目を察しつつ、「でも(○○の部分においては)ちょっと微妙である」という別の項目に対する評価を提示した、ということであると考えられる。

恐るべきはその後のA子で、B子の何の前触れもない別項に対する評価を受け止め、かつ迅速に「それは言えている」という共感の言葉を投げかけている。これは、B子が主語を使わずに提示した「ちょっと微妙」という評価が、C子の彼氏のヴィジュアルのどういった点に対する評価であるかを一瞬にして察し、そこに対する自分の意見を共感という形で発信した、ということである。尋常ではない直感力だ。

残念ながら若干むせ込みながらチャーハンをかき込む僕の位置からはC子の彼氏の写真は確認できなかったため、それ以上の観察は無意味であった。しかし、女性間の主語を介さない会話の凄まじさを味わうには、十分な機会であった。

なお、この会話をしていたのが僕と彼女様であったとしたら、きっとこうなる。

彼女様「なーなぁ、これ、C子の彼氏なんやけどな」

僕「んあ?(ギョーザはすはす)」

[ここでチャーハン皿が飛ぶ。]

彼女様「これやでぇ」

僕「すいません、チャーハンで何も見えません」

彼女様「そんな眼球はもういらないね?」

僕「うっわ超見えた何これものすごい男前じゃないですか」

彼女様「やろ。どうしてお前はこうでない上に岡田准一でもない上に頭からチャーハンを被ってるんや」

僕「チャーハンに関しては僕もつい先ほどから疑問に思っていました」

彼女様「どうしてお前は岡田くんでない」

僕「それは犬を飼いながらコイツは猫じゃないと愚痴を垂れるのと同じじゃないか」

彼女様「岡田くんでないお前はもういらないね?」

僕「ちょっと整形外科予約してきます」

心の眼は当分開きそうにない。

ragyotya_130111