音楽を演奏する人向けの記事が続いている昨今です。
前回の記事では、「ロックっぽい」楽曲を僕なりに定義してみました。
今回はアコギの弾き語りスタイルでメリハリのあるビートを演出するために、知っておくと役に立つ、音楽とアコギの知識についてお話しします。
アコギしか弾かない僕の与太話しですが、誰よりも誠実に楽器と語り合ってきたあなたなら、きっとご自信の楽器と過ごしていくこれからの日々に、難なくそのエッセンスを汲み上げることができるでしょう。
さて、まずは単刀直入に、出会い頭に、僕が最も大切にしている言葉をお送りしましょう。
音楽とは、高い音と低い音を整理整頓したものである。
この言葉は僕に音楽を教えてくれた大切な恩師であり仲間でもある愛すべきロクデナシのドラマーから授かったものです。
当記事は、この言葉を前提として進んでいきます。
高い音と低い音、あと、中くらいの高さの音の役割り
先ほどから「高い音と低い音」とのたまっておりますが、これは人間が認識できる音の高低幅のうち、気持ちいいなーと感じられる「音楽的な高い音〜低い音」のことを指しています。
ここからはドラムセットをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれないですね。
低い音はバスドラムで、高い音はハイハット。
スネアドラムは、中程の高さ、ということになりましょうか。
ちなみに、クラッシュシンバル達はよく聴くとハイハットよりも音が低いのですよ。
僕はドラムに馴染みがなかったので、この事に気付いた時は結構びっくりしました。
さて、ここでぜひ覚えておきたいのが、鳴っている音の高さによって、リスナーが受ける印象が変わる、ということです。
例えばバンド編成の演奏から低い音担当であるベースが抜けると、それまでは意識して聴いていなかったとしても、なんだかスカスカの隙間だらけの印象を受けますよね。
どうにも重心が高くなって、音楽としての安定感を欠いたような感覚を覚えることもあるかもしれません。
つまり、楽曲の中で流れている低い音が担っている役割りとは、広く隙間を埋め、かつ楽曲に安定感を与えること、と考えていいでしょう。
音楽以外だと、生産工場のラインや、車のエンジンの音も、低い音の成分が多いですね。
慣れてくると音が鳴っていること自体を忘れるけれど、音が止まるとまた鳴っていたことを思い出す。
低い音は、目立ちはしないけれど存在感は大きい、と表現することもできるかもしれません。
そしてそう、聡いあなたが察している通り、高い音が人に与える印象は、低い音のそれとは真逆です。
高い音はよく耳につくので、多少ボリュームが小さくても聴き取ることができます。
音の歯切れも良いので、演奏の中では楽曲のリズムを刻む役割りを担うことが多いですね。
先述したドラムのハイハットなどは、その最たるところでしょう。
ところで、代表的な「中くらいの高さの音」とは何でしょう。
そう、あなたのおっしゃる通り、それは「人の声」です。
人は言葉でコミュニケーションを取る生き物ですから、人の声が最も心地良く聴こえるようにできています。
高すぎる音は耳に痛い。
低すぎる音は聴き取りづらい。
何と比べて?
人の声と比べて、です。
だから大抵の場合バンドの主役はボーカルですし、近い高さの音を出す楽器(「バイオリン」や「サックス」など)も、演奏の主役に配置されることが多いですね。
ドラムセットだと、スネアドラムの音がそれに当たります。
耳触りが良く、かつ高音の成分も多めなので、楽曲のビートにアクセントを付ける仕事に就いているのです。
ギターにおける、「高い音」と「低い音」
さて、ドラムセットの場合は、低い音担当の太鼓と、高い音担当の金属の板、という構造なので、視覚的にも分かりやすいですね。
これをギターに置き換えてみましょう。
あなたのパートナーが鍵盤なら、脳内で理解しやすい言葉に置き換えながら読み進めてみてください。
アコギが出せるもっとも低い音は、6弦解放の音です。
レギュラーチューニングの場合はE(ミ)の音ですね。
僕の場合は半音〜全音下げチューニングにしていることが多いので、E♭かDということになります。
一方、高い音は1弦の最上段のフレット…ということになりますが、まあアコギなので、だいたいにおいて使い物になるのは、せいぜいが15フレット(A)辺りではないでしょうか。
それよりも高い音は、無理して使わなくても、楽曲を成立させることは十二分に可能です。
この、6弦解放(E)〜1弦15フレット(A)が、アコギに与えられた音楽的な音の幅、ということです。
はい、そうですね。
思慮深いあなたがご指摘された通りです。
アコギの弾き語りは、大体の場合においてはコードを押さえて弦を掻き鳴らす、いわゆる「バッキング」プラス「ボーカル」の構図になります。
僕だってそうです。
コードをジャカジャカやる分には、高い音や低い音、なんてことは考えなくてもいいのでは?という疑問は、当然のことです。
しかし、しかしです。
あなたならきっと分かってくださると信じてお伝えしましょう。
ギターという楽器を、「決まった指の形で弦を押さえればなんとなく和音が鳴る楽器」と捉えるか、「6本の弦がそれぞれの音粒をこの世に生み出し、それらを折り重ねることによって素晴らしい音世界を表現することのできる神様の贈り物」と捉えるかで、僕らが出会う未来の色彩は大きく変わるのです。
あなたがギターを弾(ひ)く時、あなたは6本の弦を弾(はじ)いているのです。
超絶テクニックのソロプレイを嗜む方も、バッキングし一発で魂を歌い上げるという方も、ぜひ今日この後ギターを構えた折には、今この瞬間も指先との再会を心待ちにしている弦たちのことを、想ってあげてください。
まとめ
長々と御託を並べてきましたが、結局僕がこの記事で言いたかったことはふたつです。
ひとつは冒頭でも述べた通り、音楽とは、高い音と低い音を整理整頓したものである、ということ。
そしてもうひとつは、あなたのパートナーである楽器はめくるめく音世界への扉を開く魔法の杖であり、あなたはその杖を神様から与えられた魔法使いである、ということです。
思い通りの音が鳴らず、嫌な気持ちになることもあるでしょう。
忙しい日々に追われ、楽器と語らう時間が取れないこともあるでしょう。
そんな時でも、いえ、そんな時こそ、あなたのパートナーであるギターは、ピアノは、全ての楽器たちは、七色の可能性と共にそこに在るのだと、ぜひ思い出してあげてください。
さあ、僕たちは音楽への理解を深めました。
楽器たちに対する愛を思い出しました。
次の記事ではいよいよ、弾き語りでロックな演奏をするための具体的な手法を語らいましょう。
今からとても楽しみです。
蛇足。
この「音楽とは~」の言葉を授けてくれた男は前衛音楽家としての側面も持っていて、その日のイベントの構成によってはリズムの無い音楽を演奏することもありました。
そんな演奏を聴いた後、彼に
「今の演奏は、高い音と低い音を整理せずにただ並べているから、音楽ではないということではないの?」
と聞いてみたところ、
「山ちゃん、何事にも例外はあるんだよ」
と言われて、もう何でもいいんじゃねえかと笑った覚えがあります。
音楽の懐の深さ、果てしないったらないですね。