先日、奈良県はならまちを彼女様と彼女様のお犬様ご一行と散策した時のことだ。目当ての店が軒並み定休日な上に珍しく僕が地図を読み違えたものだから、隣を歩く彼女様の憤慨は頂点を極めていた。
ちょうど、RPGの初期ステージに出てくる雑魚モンスターが魔王クラスのモンスターと並んで歩いているようなものだ。運転に飽きてきたドライバーが助手席のぬいぐるみをモフモフするような感覚で抹殺される。僕は情緒溢れる古都を戦々恐々として闊歩した。
定期的な気遣いの言葉と黒ごまアイスクリームの投入で辛うじて首の皮一枚で命をつなぎ止めていると(首の皮一枚しか繋がっていない人が助かるとは思えない)、家々の軒先に赤い球がぶら下がっているのが目に入った。よく見ると頭のようなものがついていて、人の形をしている。
何か別のもので木を紛らわせようと必死だった僕は、それを指差して彼女様に声をかけた。
僕「見てほらなんか駿河問いみたいなオブジェがある」
彼女様「くたばれ」
僕が本当に雑魚モンスターであったら一瞬で消し炭になっていたところである。圧倒的な迫力に耐えつつ、僕は続けた。
僕「何だろうね、これ。あっちこっちにあるよね。」
彼女様「気持ち悪いわぁ」
僕「しかも数珠つなぎに」
彼女様「いよいよキモいわぁ」
僕「うわっ めっちゃでっかいのあるっ」
彼女様「怖っ」
僕「相対的に見ると可愛いよ」
彼女様「何と比べた」
めっちゃでかい。
この巨大な駿河問いの立体オブジェが掛かっていた建物の中を覗くと、どうやらこのアイテムの販売店らしかった。僕は怪訝な顔をする彼女様からこれが一体何かを聞いてこいという命を受け、お店の中で作業をしているお姉さんに話し掛けた。
お姉さんによると、これは人ではなく猿であって、厄よけのお守りらしい。背中を下にして手足を縛られているので、駿河問いとは形が異なるとのことだった。そのことを彼女様に伝えると
彼女様「っていうことは、昔は実際に猿をぶら下げてたってことかな」
と言って眉をひそめた。命を大切にするという概念を持っていたことに驚いていると、彼女様は続けた。
彼女様「めっちゃ怖いな」
僕「相対的に見ると可愛いよ」
彼女様「さっきから何を比べてるねん」
厄よけ猿のオブジェをひとつ買おうか、本気で悩んでいる。