掘る土敷く土残る土。

「みかん畑(ばた)の溝掃除するど」

こたつに埋もれて幸せに現実逃避をしていた僕に、じーちゃんは容赦なく生活への貢献を強いた。ちょうど昼食を食べ、これで1時間でも昼寝ができたらもう社会とかどうでもええです僕、といった精神状態であったから、それはもう腰が重いどころの騒ぎではなかった。

「食うたら働け」

ごもっとも過ぎて屁も出ない。ということで唐突に、僕はじーちゃんとみかん畑の溝を掃除することになった。

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突然の労働にも関わらず気合いを込めるイケメン。チップ&デールのハンドタオルで可愛らしさを抜け目無く演出。

本日の作業区間はみかん畑の平地と段地のちょうど境目にある溝の一部である。じーちゃんの畑は山の麓にあるのだが、それ故に雨などで山に滲みた水の通り道にもなっている。最後に掃除したのがいつか思い出せない、などと評されるその溝は、長い年月掛けて上部から流れてきた雨水が連れてきた土や小石に埋もれ、溝というよりはちょっと特殊な造形のウネ的様相を呈していたのである。

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「なんかここだけ色違うよね」みたいな。

で、掘りおこした土を処理するのかと尋ねると、

「畑来るまでの道にちょっと掘れてたとこあったやろ。そこに敷くねや。」

と言う。そして、そこに土を運ぶのが、僕に課せられた仕事であった。当然じーちゃんひとりに土を掘らせ続ける訳にもいかず、僕はクワを持って、これからじーちゃんがスコップを突っ込むところをザックザックと耕していった。

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このようにして

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このように。

渾身の一輪車一杯の土が、それはもう焼け石に水的体積でしかないという超現象。僕は早々に折れた心を引きずりながら、時にはちょっと安全そうな場所に置いておいたりしながら、一輪車の総積載量の限界に挑戦し続けるじーちゃんに圧倒されながら、粛々と業務をこなした。

「ちょっと一服しょーら」

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作業開始20分。ゆとり工期。

現場と廃棄場を4~5往復したところで急に一服を申し渡されたものだから、僕は嬉しくなって「ちょっと飲み物取ってくる」と、つい今しがた土を敷いてきたあぜ道を駆け下り、自宅の冷蔵庫からジュースを何本か取り出し、改めて現場に駆け戻った。

敷いたばかりの土はまだ中に空気を含んでいて、踏みしめる足の力を吸い込んでしまう。これからまた長い日にちをかけて、この土は道になってゆくのだな、などと詩的な表現が、ポケットに詰め込んだペットボトルの冷たさと相まって、生きていることを実感させてくれる。

息を切らせて現場。ちょっとした段差に腰を掛けてゆったりしていたじーちゃんにジュースを渡す。先日、海に行った時に2人1本ずつ買ったものの残りである。じーちゃんは

「これはひやこい」

と嬉しそうにペットボトルを受け取ると早速フタを開け、クックッと二口ほどを口に含み、こう言った。

「ゆっくりしたし、やろか。」

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あまりの衝撃にイケメンの顔も歪む。

ほぼ存在しなかった一服が終わり、改めて土を運ぶ作業が始まった。積む。運ぶ。捨てる。を、ひたすら繰り返す。途中僕が一輪車を押して帰ってきてもじーちゃんのスコップが動かない時などは、僕が代わりに土を積んで、また運ぶ。

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掘る。

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掘る。

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掘る。

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そして敷く。

みかん混じりの砕石という全く新しい建材の誕生であった。

ということで、およそ2時間ほどの作業の末、今回の区間での作業は全て終了と相成った。

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これでも上をすくっただけ。

溝を完全に溝として復活させるには、我々だけでは完全に労務不足である。いずれブラザーちゅわさんなどがのうのうと帰ってきた時などに、食後のまったりとした空気を裂いて、作業を強いたい。

それでは、お疲れさまでした。

また。

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じーちゃん「カイちゃんどこいってたんや」

カイちゃん「んなァ」